短期譲渡所得とは?計算方法や特別控除を詳しく解説
不動産を売って所得が生じると、譲渡所得税が課されます。譲渡所得税の税率は、不動産の所有期間によって異なり、取得から5年以下で売ると短期譲渡所得として高い税率が適用されます。
そのため、不動産売却のタイミングは、税制面での影響も考慮して慎重に判断することが大切です。この記事では短期譲渡所得における税金の計算方法や特別控除の内容について、詳しく解説します。
もくじ
短期譲渡所得とは
資産の売却で得た収入から、必要経費を差し引いた残りの金額を「譲渡所得」といいます。このうち、所有期間が5年以下の資産を売却して得た所得が「短期譲渡所得」です。
より正確にいうと不動産を売却(譲渡)した年の1月1日時点での不動産所有期間が5年以内であれば、譲渡所得に対しての税率は短期譲渡所得として計算されます。
一例として不動産の取得日が2019年3月1日、売却日が2024年5月1日であるケースを考えてみましょう。
この場合の厳密な所有期間は5年2ヶ月ですが、不動産を売却した年(2024年)の1月1日時点での所有期間を計算すると、4年10ヶ月です。この計算方法では所有期間は5年以下になるため、5年を超えて所有しているにもかかわらず短期譲渡所得が適用されます。
長期譲渡所得との違い
長期譲渡所得は、不動産を売却した年における1月1日時点での所有期間が5年を超えている際に適用される所得区分です。
短期譲渡所得と長期譲渡所得には、税率に大きな差があります。譲渡所得の税率は、次の通りです。
所得税(%) | 住民税(%) | 合計(%) | |
---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 30.63 | 9 | 39.63 |
長期譲渡所得 | 15.315 | 5 | 20.315 |
税率を比較すると、短期譲渡所得は長期譲渡所得の約2倍です。そのため、不動産の所有期間が5年を超えてから売却することで、税負担を大幅に軽減できることがわかります。
なお2037年(令和19年)までは、復興特別所得税として所得税額の2.1%を追加納税する必要があります。
税率が大きく違う理由とは
売却時の所得税が不動産の所有期間によって大きく異なる理由は、バブル経済と呼ばれる1990年前後に日本で起きた現象が関連しています。
バブル経済期は、日本企業の資本が世界中に溢れ、世の中が好景気に沸きました。日本経済は実態を伴わない程の規模まで膨れ上がり、あるときを境に泡が一気にはじけるように経済が停滞してしまったのです。
企業や投資家が投機目的で不動産の取得と転売を短期間で繰り返し利益を稼いだことが、バブル経済の一因でした。土地や株式が本来の価値よりはるかに高額となり、経済の膨張を引き起こしたのです。
短期譲渡所得と長期譲渡所得にかかる税率の違いは、バブル経済と同じ状況を再び作らないためであるといわれています。所有した不動産を短期で売却した場合にかかる税率を上げることで、長期の所有を促しているのです。
相続や贈与で取得した不動産の取り扱いについて
相続や贈与で得た土地や建物については、所有期間の計算方法が異なります。これらのケースでは、不動産の取得日は被相続人や贈与した人が当該不動産を取得した日が起点と考えます。
たとえば2024年1月1日に相続した土地を、2024年7月1日に売却する例について考えてみましょう。相続人の土地の所有期間は、6カ月です。売却して得た譲渡所得は短期譲渡所得とみなされて税金がかかるのでしょうか。
この場合、所有期間は相続人が土地を相続した日付ではなく、被相続人が該当する土地を取得した日付が起点になります。被相続人が土地を取得したのが2019年1月1日以前であれば、相続人が売却して得た譲渡所得は長期譲渡所得とみなされます。
相続人が不動産を相続した日や、贈与された日ではない点がポイントです。
短期譲渡所得の計算方法
不動産の売却時における譲渡所得の計算方法は次の通りです。
ここでは、各項目について解説します。
収入金額とは
収入金額は、不動産の売却価格です。1億円で売却したのであれば、収入金額は1億円です。
また、収入金額には固定資産税の精算金も含まれます。固定資産税の精算金とは、不動産を売買する際、買主が取得日から年末までの期間に応じた固定資産税を売主に支払うものです。
不動産の固定資産税は、1月1日時点の所有者に納税義務があります。しかし、年の途中で不動産を売買した場合、売主が12月31日までの固定資産税を納めるのは不公平です。
そこで、売買契約の際に、買主が不動産を取得した日から年末までの固定資産税を日割り計算で算出し、「固定資産税の精算金」として売主に支払います。
たとえば9月1日に不動産を売却すると、9月以降の所有者は買主です。売主が余分に納税した金額を補填する目的で、買主は売主に9月以降の固定資産税相当額を清算金として支払います。支払われた清算金は、不動産譲渡価格の一部として収入に加えられます。
取得費用とは
取得費は、不動産を取得するためにかかった費用の総額です。
取得費に含まれる代表的な費用は以下のとおりです。
- リフォーム費用
- 仲介手数料
- 不動産購入時の登録免許税
- 登記費用
- 取得税
- 印紙税
- 立退料など
建物の取得費は、上記の合計額から建物の所有期間中に発生した減価償却費を差し引いて計算します。
また、相続や贈与で不動産を得ると、不動産購入時に支払われた取得費が分からないケースがあります。その場合、取得費として売却した金額の5%が計上できます。
たとえば不動産を1億円で売却すれば、取得費が不明なら計上できる取得費は500万円です。
判明している取得費が売却金額の5%を下回るときも、売却金額の5%を取得費にできます。つまり、取得費は最低でも5%の計上が可能です。
譲渡費用とは
譲渡費用は、不動産を売却する際に発生した諸費用のことをいいます。具体例として、次のようなものがあります。
- 不動産会社への仲介手数料
- 売主が負担した印紙税
- 土地のみを売却する際に建物を取り壊した費用
- 借家人に支払う立退料
- すでに売買契約済みの不動産を、より高額で売却するために支払った違約金
- 名義書換料
資産の維持管理にかかった費用や固定資産税などは、譲渡費用の対象外です。
不動産の売却関連でかかった費用が譲渡費用に含まれるか不安なときは、専門家への相談をおすすめします。
シミュレーション例
ここでは、短期譲渡所得にかかる税金をシミュレーションします。
短期譲渡所得金額が500万円のケースでは、計算方法は次の通りです。
住民税 = 譲渡所得500万円 ×(税率)9% = 45万円
復興特別所得税 = 所得税額150万円×(税率)2.1% = 3万1,500円
合計すると、短期譲渡所得にかかる税金は合計198万1,500円です。
短期譲渡所得に適用できる主な特別控除
短期譲渡所得は長期譲渡所得と比較すると税率が高く設定されています。一方で特別控除を利用すれば、一定の納税額を節税できます。国税庁が許可している特別控除は、全部で8種類です。
ここでは、いくつかの特別控除とその利用方法を紹介します。
3,000万円の特別控除の特例
マイホームを売却した際は、3,000万円の控除が受けられます。売却時における不動産の所有期間は問われないため、短期での譲渡にも適用できます。
適用要件は次の通りです。
- 自ら住む家屋を売る、もしくは家屋とともにその敷地や借地権を売ること
- 売却年の前年と前々年に同じ特例や、マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例、そのほか特例の適用を受けていないこと
- 買主が売主の親族や同族会社などの関係でないこと
5,000万円の特別控除の特例
個人が所有する不動産を公共事業のために売却したケースでは、5,000万円の特別控除が受けられます。
この特例を受けるための要件は、次の通りです。
- 売却した不動産が販売目的の資産ではなく、固定資産であること
- その年において、公共事業のために売却した資産のすべてで「収用などに伴い、代替資産を取得した場合の課税特例」の適用を受けていないこと
- 買取などの申し出が最初にあった日から6か月以内に売却すること
- 買取などの申し出を最初に受けた者(あるいは相続人)が譲渡すること
2,000万円の特別控除の特例
国や地方自治体が行う特定土地区画整理事業によって不動産を売却したケースでは、2,000万円の特別控除が受けられます。
特定土地区画整理事業は、住宅地供給促進や道路の整備などを目的として行われる制度です。目的のひとつは、農地の所有者等が農業経営と住宅経営をしやすくすることです。
また、大都市地域における学校用地や公的住宅不足などの特殊事情に対応するための事業でもあります。
その他の特別控除
前述した特例以外にも、次のような特別控除の特例があります。
- 特定住宅地造成事業等のために土地を売った場合、1,500万円の特別控除
- 平成21、22年に取得し5年を超えて保有した土地を譲渡した場合、1,000万円の特別控除
- 農地保有の合理化等のために土地を売った場合、800万円の特別控除
- 都市計画区域内にある低未利用土地等を500万円以内で売った場合、100万円の特別控除
特別控除の利用には、さまざまな条件を満たす必要があります。利用の際は、専門家に相談することをおすすめします。
特別控除を利用する方法
特別控除を利用すると、売却時の翌年に確定申告をする必要があります。通常の確定申告手続きで準備する書類の他に、特定の書類の提出が求められます。
必要な書類は適用する特別控除によって異なるため、しっかりと事前に調べておくことが大切です。なお不動産を売却した譲渡利益について確定申告する場合、期間は不動産を売却した翌年の2月16日から3月15日までです。
特別控除を利用する際の確定申告で提出する書類については、国税庁で公開されている「譲渡所得のチェックシート(令和5年分)」をもとに確認すると効率的です。是非活用することをおすすめします。
まとめ
不動産を売却する際の所得税額は、所有期間が5年以下か5年を超えるかによって大きく異なります。
5年に満たない短期での譲渡は納税額が大きくなりますが、特別控除を利用できれば節税が可能です。売却時の所得税や特別控除などを事前に計算し、最適な不動産売却時期を検討しましょう。
不動産を売却する際には複数の不動産会社に査定を依頼することが一般的ですが、不動産会社それぞれのWebサイトに所有する不動産の情報を入力するには時間も手間もかかります。
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2022年からリビンマッチのコラム記事の執筆・編集を担当しています。不動産の財産分与に関する記事執筆が得意です。住宅設備機器の専門商社に6年間従事した知識と経験を活かして、不動産に関する知りたかったこと、知っておいた方がいいことをわかりやすく伝えられるように心がけています。
この記事の編集者
リビンマッチ編集部
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