不動産を相続放棄したらどうなる?決断後、後悔しないための確認事項
不動産を相続放棄すると、その不動産に関する権利や義務がなくなりますが、それだけではありません。 相続放棄は一度したら取り消せないので、後悔しないためには事前に以下の点を確認しておく必要があります。
- 相続放棄の基礎知識
- 相続放棄したらどうなるか
- 相続放棄の影響と注意点
- 相続放棄したほうがよい人と、しないほうがよい人の違い
以下でわかりやすく解説しますので、不動産の相続放棄を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
相続放棄する人は増加?
2024年4月1日から「相続登記の義務化」の施行が決まり、今後相続放棄する人が増えると予想されています。相続登記とは、相続した不動産の名義を法務局で変更することです。これまでは登記の明確な期限や罰則がなく、相続登記せずに空き家などとして放置するケースが多く見られました。
実際、筆者にも30年近く前に亡くなった祖父の名義のままになっている土地があると話していた知人がいます。結果として、何代も前から相続登記されず、現時点で所有者が不明の不動産が日本中で増えてしまいました。
所有者不明の土地を減らすために、相続を知ったときから3年以内に相続登記するルールが施行されます。正当な理由なく3年以内に相続登記をおこなわなかった場合、10万円以下の過料が科せられる罰則があります。
そのため自身で管理や活用できない不動産を中心に、相続放棄する人が増えると考えられます。ここでは、今後増えることが予想される相続放棄の基礎知識について解説します。
不動産(建物や土地のみ)のみ相続放棄は不可能
相続放棄では、不要な不動産だけの放棄はできません。相続放棄は、相続に関する一切の権利を放棄することです。
「現金は引き継ぎたいが不動産のみ手放したい」「自宅は引き継ぎたいが別の不要な土地は手放したい」といった、部分的な放棄はできません。
プラスの財産>マイナスの財産なら限定承認の選択肢も
一部引き継ぎたい財産がある場合は「限定承認」という選択肢があります。
相続というと、プラスの財産を引き継ぐイメージがありますが、現金や有価証券などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も通常すべて引き継ぐ必要があります。しかし限定承認では、プラスの財産額を上限としてマイナスの財産を引き継ぐことが可能です。
- プラスの財産500万円、マイナスの財産1,000万円の場合
- マイナスの財産500万円までを引き継ぐため相続財産は0円
- プラスの財産1,000万円、マイナスの財産500万円の場合
- プラスの財産のほうが500万円多いため、相続財産500万円
限定承認では、本来相続したかった自宅などを手元に残せるメリットがあります。一方、限定承認の手続きは相続人全員で家庭裁判所に申述・申請する必要があるため、誰かひとりでも反対している場合には手続きできません。
相続放棄をしたら、別の相続人にしわ寄せが来る
相続放棄の手続きは単独でおこなえますが、次の相続順位の人にしわ寄せがくることに注意が必要です。相続順位は次のとおりです。
順位 | 配偶者は常に相続人 |
---|---|
1位 | 子ども |
2位 | 親 |
3位 | 兄弟姉妹 |
たとえば、80代の父・50代のひとり息子において、父が亡くなった場合の相続で考えてみましょう。父が亡くなったときに、息子が相続放棄したとすると第2順位の親に相続権が移ります。仮に親がすでに亡くなっていたとすると、兄弟姉妹に相続権が移ります。
そのため、このケースで息子が相続放棄した場合、亡くなった父親の兄弟姉妹が相続の手続きをする必要があるのです。相続放棄は単独で手続き可能なため、兄弟姉妹は自分たちが相続人であると知らなかった、といったトラブルが生まれることもあります。
また、子どもだけでなく次の相続順位である親や兄弟姉妹など含め、相続人全員が相続放棄するケースも考えられます。この場合の財産の取り扱いについては後述しています。
これと似たケースで、相続人となっていることに気づかなかった知人がいました。ある日突然税務署から、相続税の延滞税のお知らせが届いて驚き、急いで支払ったそうです。延滞税は納期限の翌日から2月を経過する日の翌日以後、年14.6%も徴収されます。
次の順位の相続人へは、必ず連絡して相続放棄したことを知らせましょう。
相続放棄の期限は、相続を知った翌日から3カ月以内
相続放棄の手続き期限は、相続があったことを知ったときから3カ月以内です。3カ月の間に被相続人の残した資産について調査し、必要書類をそろえて申述書を作成し、家庭裁判所に提出する必要があります。
相続放棄は取り消しや撤回ができないため、「あとから多額の資産が見つかった」といったことがないように調査をおこないましょう。
葬儀や法要が終わって落ち着いたら相続について話し合うことが多い中で、3カ月以内の手続きはタイトなスケジュールといえます。相当の理由がある場合は3カ月をすぎても、家庭裁判所が認めれば相続放棄できますが、「忙しかった」などの理由では認められないため、注意してください。
相続放棄しても生命保険の受け取りは可能
相続放棄をすると、被相続人の財産に関して一切関係がなくなります。しかし、被相続人が自身にかけていた死亡保険で、受取人が相続放棄した人になっている場合は支払いを受けられます。
たとえば次のような生命保険の場合です。
契約者 | 被保険者(保険加入者) | 受取人 |
---|---|---|
父(被相続人) | 父(被相続人) | 息子(相続放棄した人) |
生命保険の受け取りは、受取人固有の財産と評価されるので、相続放棄しても支払いを受けられます。
しかし、解約返戻金がある保険では、契約者が亡くなったことにより保険自体を解約して解約返戻金を受け取るケースがあります。たとえば、次のようなケースが該当します。
契約者 | 被保険者(保険加入者) | 解約返戻金(死亡保険金)の受取人 |
---|---|---|
父(被相続人) | 妻 | 息子 |
父(被相続人) | 父(被相続人) | 父(被相続人) |
父(被相続人)が契約者、妻が被保険者、息子が解約返戻金の受取人のケース
契約者(父)が亡くなった場合、保険契約は継続されます。なぜなら、被保険者(妻)はまだ生存しているからです。しかし、契約者が不在となるため、契約の継続か解約かを選択する必要があります。解約を選択した場合、解約返戻金は指定された受取人(息子)に支払われます。
父(被相続人)が契約者であり、被保険者であるケース
保険契約は終了し、死亡保険金が支払われます。解約返戻金の受取人も父であるため、解約返戻金は被相続人の相続財産となります。
解約返戻金は被相続人の財産となるため、相続放棄した人は受け取る権利がなくなります。このとき、解約返戻金を相続人が使ってしまうと「法定単純承認事由」となり、相続放棄や限定承認ができなくなってしまいます。
自動的に単純承認したとみなされてしまうため、財産の配分前に勝手に財産を使ったり、処分したりするのはやめましょう。
相続放棄をしたら最終的にどうなる?
相続放棄は一般的に、マイナスの財産がプラスの財産を上回るときにおこなわれます。誰にとってもマイナスの財産は引き継ぎたくないので、相続人全員が相続放棄することも考えられます。
また、借金などのマイナスの財産だけでなく、管理しきれない土地や空き家がある場合にも全員が相続放棄する可能性はあります。
ここでは、相続人全員が相続放棄したあと、財産がどうなるのか解説します。
借金は返せる財産があれば清算される
相続人全員が相続放棄した場合、借金などは債権者(お金などを貸していた人)が家庭裁判所に申し立てることで、清算される場合があります。
申し立てがあったら、裁判所は相続財産清算人を選定します。相続財産清算人は、一般的には弁護士や司法書士が選ばれます。相続財産清算人は家庭裁判所の許可を得て、有価証券や不動産の売却をおこない、法律にしたがって債権者に清算をおこないます。
ただし、相続財産清算人の選任申し立てには、与納金(相続財産清算人の報酬とするため)などの費用を負担する必要があり、マイナスの財産のほうが多い場合は必ず清算されるかわかりません。そのため、申し立てをおこなわないケースもあります。
不動産は最終的に国のものになる
相続財産清算人によって、有価証券や不動産を売却して債権者への清算を済ませたあと、残った財産は国のものになります。売却しきれなかった不動産はもちろん、残った現金なども国へ帰属させる手続きを取ります。
一方、相続放棄した不動産は必ずしも国のものにならないこともあります。相続人全員が相続放棄しても、費用がかかるわりに債権(借金)が回収できない可能性もあるため、相続財産清算人の申し立てを債権者がおこなわないことも多いのです。
相続財産清算人が選定されない場合、不動産は相続登記されることなく、ゆくゆくは所有者不明となってしまう危険性があります。
【状況別】相続放棄すべき人
相続放棄すると自宅などを含めた、すべての財産の相続権を失ってしまいます。しかし、明らかに負債が多い場合でも、自宅だけは引き継ぎたいなどそれぞれに事情があるものです。
ここでは、相続放棄すべき人を状況別に紹介します。
明らかに負債>資産とわかっている人
相続財産を調査した結果、明らかに負債が資産よりも多いときは相続放棄することで損失を回避できます。
また、被相続人には負債がない、資産でまかなえる程度の負債しかない場合でも、被相続人が第3者の連帯保証人になっている場合には相続放棄を検討しましょう。万が一、連帯保証人になっている相手が負債を支払えなくなった場合、相続人に支払いの義務が発生してしまうため注意が必要です。
相続問題に巻き込まれたくない人
相続では資産額の大小にかかわらず、すれ違いが起こってしまいがちです。相続問題に巻き込まれたくない場合は、最初から相続放棄をして相続に関わらない方法もあります。
相続問題が起こりやすいケースには、次のようなものがあります。
- 兄弟姉妹の仲がよくない、疎遠
- 親の介護の負担が誰かに偏っている
- 生前贈与が特定の家族だけにおこなわれていた
- 遺言書の内容が不公平だった
- 前配偶者の子どもなど立場や考えが違う相続人がいる
上記のようなケースに当てはまる場合は、相続でもめやすいため相続放棄することで、相続の問題から遠ざかれるでしょう。
特定の人に事業などすべての財産を承継させたい人
被相続人が事業をおこなっていた場合は、事業を引き継ぐ人にすべての財産を継承させるために、ほかの人は相続放棄を選ぶケースがあります。
事業をおこなっている場合は、財産の内容が複雑で分けるのが困難です。
たとえば開業医の相続では、医院を継ぐ医者の子どもと医者ではない子どもで、遺産分割に偏りが出て、もめやすいといわれています。
医院の設備や機器は医者ではない子どもが相続しても使い道がなく、医院の土地や建物も基本的に法人名義になっているため、相続する医者の子どもが自由に換金することなどができません。このときに相続の配分でもめてしまうと、最悪の場合事業が破綻してしまう危険性もあります。
事業を継承させたい特定の人がいるときは、相続放棄を選ぶことも選択肢に入れましょう。
今後、相続する財産管理ができない人
現在の住まいから離れた自宅などの建物や土地、山林や農地など、管理にお金や手間がかかる不動産は相続放棄を検討したほうがよいでしょう。
2024年4月の相続登記の法改正に先立ち、2023年4月から「相続土地国庫帰属制度」が施行されました。この制度では、いったん相続した土地でも管理が難しければ、手放して国のものにできます。
しかし、実際には国として引き受ける要件や負担金は厳しいものとなっています。たとえば、次のような土地は引き受けできません。
- 建物や処分に困る工作物などがある土地
- 土壌汚染や埋設物がある土地
- 危険な崖がある土地
- 通路など他人によって使用される土地
筆者の知人に、管理や税金の負担が大きく国に帰属させたい土地があるが、埋設物があり撤去に1,000万円近くかかるため、埋設物除去に踏み切れずにいるという人がいました。
また、建物があっても国へ帰属させられないため、少なくとも100万円以上かけて取り壊す必要があります。
さらに10年分の土地管理費相当額の負担金を納付する必要があるため、実際には相続後に国庫帰属の手続きを取るよりも、最初から相続放棄を選択する人が多いでしょう。
【状況別】相続放棄すべきではない人
つづいて、相続放棄すべきではない人を紹介します。
負債>資産かはっきりわからない人
負債が資産を上回っているかどうかはっきりわからないときは、相続放棄ではなく限定承認が有効な場合があります。たとえばプラスの資産が500万円で、マイナスの資産が400万円〜600万円とはっきりしない場合です。
この場合は、単純承認するとマイナス分を相続人が負担しなければならない危険性があります。しかし、限定承認であればプラスの資産以上にマイナスの資産を引き継ぐ必要はありません。
ただし、限定承認は相続人全員で家庭裁判所に申し立てる必要があります。ひとりでも反対する人がいれば、手続きができないことに注意しましょう。また、限定承認の申述期限も相続放棄と同様に、相続があったことを知ってから3カ月以内です。
負債を負っても相続したい資産がある人
「同居していた自宅に親が亡くなったあとも住み続けたい」「代々の土地を手放したくない」など、負債を負っても相続したい資産がある場合には相続放棄しないほうがよいでしょう。このような場合も、限定承認することで、自宅を相続できる可能性があります。
限定承認をした相続人にのみ与えられる先買権を使えば、手放したくない自宅などの不動産を取得できます。
相続放棄して失敗しないためには?事前確認事項
相続放棄は取り消しや撤回ができないため、慎重におこなう必要があります。相続放棄で失敗しないために、事前に確認しておくことは次の2つです。
相続財産について調査する
相続放棄を選択すると、あとから多額の資産が見つかっても相続できません。また、相続放棄をしたものの、実は負債がそれほど大きくなかったなど後悔しないよう、相続財産についてしっかり調査したうえで申述することが大切です。
また、現金や有価証券などの換金できる資産だけでなく、自宅などの不動産についても一切の相続権を失ってしまいます。
本当にその土地は有効利用できないのか、資産価値がないのかなど相続する不動産についてもよく調べてみることをおすすめします。
期限内に手続きをおこなう
相続放棄は慎重におこなう必要があるものの、相続があったことを知ってから3カ月以内の申述・申し立てをおこなわなければいけません。相当の理由がない限りは、3カ月をすぎての申述は受け付けられないため注意が必要です。
弁護士に相談すると相続財産の調査だけでなく、調査途中で相続放棄から限定承認の手続きに変更することも可能です。自身の判断だけで不安な場合は、弁護士や司法書士に相談することも検討しましょう。
不動産の一括査定サイトで不動産の価値を確かめておく
相続放棄すべきかを検討する際に忘れてはならないのが、相続する不動産が負債なのか資産なのかを確認しておくことです。
たとえば、相続した不動産の価値がほぼゼロで売却が難しかった場合を想像してみましょう。毎年固定資産税や都市計画税を支払う必要があり、売却するために建物を解体する場合は解体費用がかかるなど、相続したばかりに余分な出費を支払うことになるかもしれません。
反対に、相続した不動産の価値が高いのに相続放棄した場合は、高く売却したり賃貸収入が得られたりといった可能性を自ら閉ざしてしまっていることになります。
そのため、相続放棄すべきかの最終判断前には必ず、不動産の価値を確認しておきましょう。不動産の一括査定サイト「リビンマッチ」では、不動産の価値を最大6社の優良会社に査定してもらえます。不動産の相続放棄を検討中の方は、ぜひご利用ください。
この記事の編集者
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