避けて通れない相続の話!切り出し方は?きっかけやタイミング、注意点
相続の話は子どもとしても「お金を狙っていると思われそう」「早く亡くなってほしいと思われそう」など、なかなか切り出しにくいものです。
しかし、早めに相続の話をしておくに越したことはありません。その理由や切り出し方の事例など、長年相続の相談業務に従事してきた経験をもとに、わかりやすく解説します。
もくじ
切り出しにくい相続の話!それでも事前に話しておいたほうがよい理由
相続について何も知らないまま両親が亡くなってしまったときは、自宅のどこに何があるのか、どのような財産があるのかを洗い出すところから相続がスタートします。
相続税の申告には被相続人の死亡を知った翌日から10カ月以内と期限がありますが、この期限内にすべての相続人が集まることさえ不可能かもしれません。遺言書がない場合、期限内に全員が集まり、誰がどのくらいの財産を相続するかを決める「遺産分割協議」ができないと、相続税の申告に遅れペナルティが発生するおそれがあります。
そもそも、財産の全容がわかっていないと、相続税の申告が必要かどうかもわかりません。スムーズな相続をするためにも、不動産、銀行口座、株式、投資、生命保険、退職金、借金など資産と負債について両親と事前にしっかり話しあっておきましょう。
家をどうするか、親の意見を反映できる
親と相続について早めに話し合っておくことで、両親の意見を財産の分け方に反映できます。
親が亡くなったあとに財産の分け方を話し合った場合、「本来長男に相続してほしかった自宅を売却してしまう」など、親の意見を反映することは難しくなるでしょう。
実際に親世代の方では、財産のほとんどは長男が引き継ぐのが当然と思い込んで、子どもに話していないケースがよくあります。
ところが子世代では兄弟なら平等といった意識の人も増えてきているため、親の意見が反映されない相続となってしまう危険性が高いでしょう。
また、特に注意すべきなのが、親が高齢になると認知症になるリスクが高まることです。認知症を発症してしまうと意思能力がないと判断されるため、親が相続の決定をするのは困難になります。
相続争いの心配が減る
相続争いというと、資産が何億もあるようなお金持ちの話と思うかもしれません。しかし、実際には資産額5,000万円の家庭での相続トラブルが、令和4(2022)年度で約8割にのぼります。(参考:最高裁判所事務総局 令和4年「司法統計年報概要版(家事編)」遺産分割事件のうち認容・調停成立件数―特別受益分考慮の有無別―全家庭裁判所)
このように、相続のもめごとは資産額にかかわらず誰にでも起こり得ます。
事前に相続に関する人全員が納得する分け方を決めておき、共通理解することが大切です。それまで仲がよかった子どもたちでも、親の介護を一方が引き受けていた場合、一方が同居していた場合など不公平を感じるケースが多々あります。
また、被相続人に子どもがおらず、被相続人の兄弟が相続人となる場合はさらに複雑です。被相続人の兄がすでに亡くなっており、その子どもが相続人となる「代襲相続」が発生する状況では、被相続人なしでの相続の話し合いは難しくなります。
なぜなら、特に代襲相続が発生した場合は、相続の対象や分割方法、相続放棄の可能性など、さまざまな要素が複雑に絡み合うためです。
相続人が多く話し合う人数が多いほど意見が割れやすいため、財産の分割割合や分割方法を決定するのは複雑になります。相続放棄する相続人がいることも、視野に入れる必要もあります。相続放棄があれば、残りの相続人によって相続放棄した分の財産をどうするかといった話し合いが必要だからです。
以上の理由から、被相続人があいだに入らないと意見がまとまりにくいのです。
相続後、手続きがしやすい!相続税の負担も軽減できる可能性
事前に相続について話し合っておくと、被相続人の資産を把握できます。どの銀行に預金があり、どの保険会社の保険に入っているかなど事前に把握しておくことで、死後スムーズに手続きが可能になります。
どこの保険に加入しているかわからず、主要な保険会社に片っ端から電話をかけたという話はよくあります。
また、事前に財産を把握しておくことで、相続税の負担を軽減できる可能性もあります。相続税には財産の一定額までは相続税を課さない、「基礎控除額」があります。
相続税の基礎控除額は、以下の計算式で算出されます。
相続税の基礎控除額=基礎控除3,000万円+(600万円×相続人の数)
たとえば、夫、妻、子ども2人の家族において、夫が亡くなったケースでは、以下のような計算式となります。
夫、妻、子ども2人の家族において、夫が亡くなったケースの相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
このように、4,800万円までは自宅を含めた財産を非課税で相続可能です。基礎控除額より数百万円超えている場合には、事前に話し合っておけば生前贈与するなどの対策ができます。
【事例】みんなはどんなきっかけで相続の話をしている?
周囲で亡くなった人がいたとき、ニュースで相続争いが話題になったときは、両親も自分ごととして捉え、心配な気持ちが高まります。
本項では実際に、どのようなきっかけで相続の話をしているのかみていきましょう。
身内や知人が亡くなった
身内や芸能人が亡くなったときは、相続の話をするきっかけになります。以下のような資産や相続のこと以外の内容で、将来的にどのように考えているかを話してみるとよいでしょう。
- 現時点での健康状態
- かかりつけの病院はどこか?かかりつけの医師は誰か
- 万が一病気になった場合、胃ろうなどどこまでの延命治療を希望するか
- 介護について施設への入居を希望するか、どのような施設がよいかなどの意向
- 葬儀のときに誰を呼ぶか、どのような葬儀にしたいか
- 元気ないまのうちにやっておきたいことはあるか
お金以外の将来についての話をすることで、どのくらいの予算があるのか、施設入居となった場合、自宅はどうしたいのかなど、自然と相続の話ができるでしょう。
お正月やお盆などに身内が集まった
お盆やお正月などで身内が集まったときも、相続について話し合うきっかけになります。身内が集まると、親戚や知人の健康や介護などに関する話題も自然と増え、子どもや孫の成長とともに自身の老いも感じやすくなります。
また、相続についての相談は、同居の相続人以外にも相続人が集まるタイミングがおすすめです。
相続について話し合わずに被相続人が亡くなった場合、「同居の相続人とだけ勝手に相談していたのではないか、生前に援助していたのではないか」など疑われ、トラブルのきっかけになります。
ニュースなどで相続争いや相続の法改正について取り上げられた
ニュースなどで相続争いが取り上げられたときは、被相続人も相続に対しての関心が高まるタイミングです。
以前、「約10万円分の航空会社のマイルについて、姉妹で取り合いになる」というニュースが取り上げられました。
何億もの遺産相続トラブルや、会社の相続など大きなもめごとは自分ごととして考えにくいものです。しかし、「10万円単位でも自分がもらえる権利分は獲得したい」といった、感情的なトラブルに発展するのが相続争いです。
また2019年からは、介護してくれた子どもの配偶者にも相続が可能となる「特別寄与制度」や、2024年からは生前贈与の法改正もおこなわれます。こうした法改正も、相続について話し合うきっかけとなります。
その時期が来るまで待たないといけない?自分できっかけをつくる方法
前項では相続の話をするのに最適なタイミングについて解説しましたが、両親の体調変化はタイミングを待ってくれるものではありません。
両親が元気なうちに話し合っておくことが大切なため、ここでは自分で相続について話すきっかけをつくる方法を3つ解説します。
みんなでお墓まいりに行く
家族みんなでお墓まいりに行くことで、相続について話し合うきっかけを自分でつくれます。
両親の子どもの頃の話やこれまでの人生、また、自宅に対する思いを聞けるでしょう。
今後、墓守を誰に任せたいのか、どのような葬儀をおこないたいのかなど、死後の希望も話し合えます。
このような将来の希望の話から、「葬儀代は用意しているのか」「生命保険に入っているのか」など財産の管理について自然と話が進むでしょう。
将来誰に家を継いでほしい?どこで暮らしたい?前向きな話題にする
相続について話し合いたい、と唐突に申し出ると、「早く死んでほしいのか」「お金がほしいのか」とネガティブに捉えられてしまう危険性があります。
将来の話を前向きに話すことで、自然と相続の話を進められるでしょう。具体的には以下のような話題がおすすめです。
- 思いがこもった大切な自宅を誰に継いでほしいのか
- 将来的にはどこで暮らしたいのか
- 病気になった場合どこまでの治療をおこないたいのか
- 葬儀には誰に来てほしいのか
最近では、必ずしも最後まで自宅に住み続ける人ばかりではなくなりました。70代で車を手放して車が必須の地域から駅の近くなどアクセスのよい場所に引っ越したり、夫婦で高齢者住宅に入居したりするケースもよく聞かれます。
また、他府県に住む子ども家族の近くに引っ越して、新しい生活を楽しむ親世代もいます。子ども世代と話し合うことでそのような方法もあることを知り、老後をイキイキ楽しみながら、相続の準備をするきっかけになるかもしれません。
相続人自身のライフプランについて話す
相続人に子どもがいる場合、被相続人にとって孫の進学や結婚は自身の相続についても考えるきっかけになります。
子ども自身の年齢の頃どのような子育てをしていたか、家族との思い出話をきっかけに、今後はどのように生活していきたいか、自宅をどうしていきたいかなど将来の話につながるでしょう。
あくまでも両親の意思を尊重し、今後の希望を聞いていくことが大切です。
タイミングは?おすすめの時間や時期
せっかく勇気を出して相続の話を切り出すなら、お互いが気持ちよく話し合いたいものです。実は心理学的に、相続のようなセンシティブな話を切り出すのに適した時間帯や季節、時期があります。
どのようなきっかけで相続の話をするのか考えたら、次はいつ話を切り出すか検討してみましょう。
おすすめの時間は15〜17時頃
センシティブな相続の話は、15〜17時頃に切り出すのがおすすめです。心理学的に、夕方の時間帯は日が落ち始め、少しずつ心がリラックスしてくる時間帯といわれています。
また、夕食前であることも大切なポイントです。センシティブな内容で、ネガティブに受け取られてしまっても、夕食というひとつの節目に向けて気持ちを切り替えやすいのです。
話を切り出す側としては、朝一番に話し終えてスッキリしたい気持ちもあると思います。しかし、これから1日が始まる朝の時間帯は、せっかく気分よくスタートしたところに「なぜ、いまそんなことを言うの?」と両親の不快な気持ちを強めてしまうおそれがあります。
15時のおやつ頃をきっかけに、相続の話を切り出してみましょう。
おすすめの時期はお盆
相続の話を切り出すのに、もっともおすすめの時期はお盆です。お盆は身内が集まりやすいという理由もありますが、心理学的にもおすすめです。
夏は、1年の中でもセンシティブな相続の話をするのに適した季節だからです。秋から冬につれて、空気が乾燥し気温が低くなると、からだの不調とともに気分が落ち込みがちになってしまいます。
また、春先は環境が変わる方が多いうえ、1日の中でも気温差が大きく、心身をコントロールする自律神経は乱れてストレスをためがちになります。
その点、暑さは続きますが、お盆頃は晴れの日が続くことが多くポジティブな気持ちになりやすいのです。
どう切り出せば気持ちよく聞ける?切り出し方の事例と注意点
相続の話を切り出すのに適切なきっかけやタイミングがわかっても、いざ切り出すのは勇気が必要です。
本項では、具体的にどのように切り出すべきかを紹介します。両親の性格や自身との関係性を見極め、適切な方法を選びましょう。
「言いにくいんだけど……」理解のある両親ならあえて直球勝負
子どもの頃から、あなたを信頼してくれるような理解あるご両親なら、直球勝負で相続の話を切り出しましょう。
センシティブな相続について考えたいことを伝えるときのポイントは、以下の3つです。
- 検討したい理由を説明する
- 検討しなかった結果どのようになるか説明する
- 自分の感情を説明する
これは心理学で「アサーション」といわれる手段で、きちんと納得してもらうために有効です。以下の例文を参考にしてみてください。
言いにくいんだけど、そろそろ相続について考えてみない?
なんで急にそんなことを言い出すんだ…。そんなに相続するものもないし、必要ないよ。
実は最近、同僚の父親が亡くなって、いろいろな手続きに苦労しているらしいんだ。どこの銀行に口座があるかもわからなくて、片っ端から電話して聞いているらしいんだ。
たしかにどこに口座があるかくらいは、そろそろ話しておかないといけないかなぁ。
まだまだ先の話だと思いたいけど、万が一のときにどこに何があるかもわからないし、かかりつけの先生も、入っている保険も何も知らないでは困ってしまうんだ。だから、まだ2人が亡くなるとは思っていないけど、早めに話し合っておきたいんだ!
このように、身近な話題として相続を捉えてもらえるよう切り出してみましょう。
注意点
直球勝負で相続の話を切り出すときは、真面目に受け取ってもらえる可能性が高くなります。
一方で、両親と仲があまりよくないときや、信頼が少ないときは「まだまだ元気だ。必要ない」と意固地になったり、お金目当てでは、と不信感を与えてしまったりします。
自分では切り出さない!税理士など第三者に聞いてもらう
税理士など第三者に相続の話を聞いてもらうことは、有効な方法です。
子どもに話すのは抵抗があっても、実は相続について気にしている高齢世代は多いものです。私自身が相続の相談業務をおこなっていた際も、相続について実際に子どもと話し合っている方は一握りでした。
しかし、「相続税の基礎控除は知っていますか?」と問いかけると、「聞いたことがない」または「知っているけど、どの資産が対象なの?」など関心を持ってくれる方が大半です。
さらに70代以上になると、話が難しいから今度息子も同席で話してくれ、と依頼される方も一定数おり、結果的に生前贈与を始めたり、株の整理を始めたりする方がいました。
第三者で法律や税金のプロとなると、財産についても抵抗なく話してくれるケースが多いので、第三者の力を借りる方法はおすすめです。
注意点
弁護士や税理士に仲介を依頼すると、相談料がかかる危険性があります。また、初回相談は無料でおこなっていても、「相続対策として遺言を書いたほうがよいので、信託の契約をしましょう」と勧められるおそれもあります。
しかし、弁護士や税理士は営業担当者ではないので、その場で契約を迫ることはめったにありません。不要と感じたら断れば問題ないでしょう。
あえてラフに!小出しにして、「ここぞ」というタイミングで話す
あえて小出しに、少しずつ相続の話をする方法もあります。たとえば、以下のような話を時折確認していくとよいでしょう。
- どこの病院にかかっているのか?持病や常用薬はあるのか?
- 健康診断の結果はどうだったのか?
- 夫婦2人や、1人になったらどこに住みたいのか?
- 自宅以外に所有している土地などはあるのか?
- 車には何歳まで乗るのか?
- 生命保険には入っているのか?自動車保険や火災保険はどこで入っているのか?
このような身の回りの話や、将来の希望をことあるごとに確認していきます。特に健康状態の話になったときには、将来を具体的に考えるきっかけになるので、相続の話まで踏み込んでいきましょう。
どこまでの延命治療を望むのか、亡くなったときに友人など誰に知らせてほしいのかと話を進めていきます。その延長で、自宅をどうしたいのか、実際に相続税がかかる可能性などに言及していくとよいでしょう。
特に自宅に関しては、その後住む親族がいるかいないかなどで、大きく相続税の課税額が変わります。自宅を誰に渡すかを決めることで、そのほかの財産の分け方も決めやすくなります。
注意点
少しずつ小出しで切り出していくと、両親はまさか相続について話そうとしているとは思わず、聞き流されてしまう心配もあります。
両親にとって子どもはいつまでも子どものため、「体調が悪いことを知られたくない」「弱ったところを見せたくない」と思う方が多数派です。「ここぞ」というときには、しっかり切り出す勇気も必要でしょう。
相続の話では、家をどうするかを忘れずに
現金と違い、物理的に動かせないのが不動産です。そのため、相続時に誰が家を引き継ぐのか売却するのか賃貸に出すのかなど、家をどうするかという話は必ず発生します。
しかし、家の価値は土地価格が高騰しない限り、所有期間が長くなるほど下がるのが一般的です。いつか売却するのであれば、価値が下がり低価格になってしまう前に売却したほうがよいでしょう。
死亡を知った翌日から10カ月以内に相続税の申告をしないと、加算税などのペナルティも発生するため、家を誰が相続するか相続した家をどうするかは早めに決定しておくのが賢い選択です。
相続の話の際に事前に確認しておくことで、親の意見も反映できるため、現金だけでなく動かせない資産についても積極的に話しましょう。
家をどうするか判断する際は、いまの家の価値を把握することが大切です。価値が高ければそのまま売却する、反対に低ければ相続放棄や解体して土地を売却するのもよいでしょう。
また、価値が高いということは、所有する価値がある、とも取れるため、売却せず誰かがそこに住むという選択肢もあり得ます。
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この記事の編集者
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