親の不動産を兄弟で相続するには?トラブルを避ける方法や売却時のポイントを解説
親の不動産を兄弟で相続するとき、トラブルが起こらないかと不安な人も多いでしょう。実際に仲のよい兄弟でも、親の遺産を巡って相続争いに発展してしまうケースもあります。円満に相続手続きを行うためにも、あらかじめ遺産相続や分割方法の基礎知識を押さえておきましょう。
本記事では、兄弟で親の不動産を相続する方法や分割の仕方、円満に相続するためのポイント、相続した不動産を売却するときの注意点などについて解説します。不動産相続でお悩みの方はぜひ参考にしてください。
- 複数の不動産会社で査定したい
- 早く売却して、ローンに充てたい
- 遠方にある物件なので地元の不動産会社に依頼したい
- いまの物件価値を知りたい
- どの不動産会社に相談していいのかわからない
もくじ
兄弟で親の不動産を相続するときの選択肢
一口に親の不動産を相続するといっても、下記のように複数の選択肢があります。
- 遺言書のとおりに分割する
- 遺産分割協議によって分割する
- 法定相続割合で共有分割する
ここからはそれぞれの方法やポイント、要件などについて詳しくご紹介します。自分たちの状況に適した相続方法の選択肢を検討してみましょう。
遺言書のとおりに分割する
不動産に限らず、親の遺言が残っている場合は、原則として遺言のとおりに分割しなければなりません。遺言とは、亡くなった人が生前に自分の死後のためにメッセージを残すことです。それを書き記して文書にしたものを遺言書といいます。親が不動産の相続に関する取り決めを遺言書に記していた場合は、その内容に沿って相続するのが基本です。
遺言書は遺書とは違い、法的な効力を有しています。たとえば不動産の相続に際して、兄弟の誰に何を渡すかを指定したり、特定の相続人から相続する権利を剥奪したり、遺言執行者を指定したりすることも可能です。遺書には一定の影響力はあるものの、法的効力は基本的にありません。
遺言書には以下の2種類があります。
- 公正証書遺言
- 自筆証書遺言
公正証書遺言は、公証人と呼ばれる法律の専門家でかつ中立的な立場の人が、遺言者から遺言の内容を聞き取って作成した遺言書です。遺言者の意思を確認した上で作成されているため、内容を巡る争いが起こりにくく、家庭裁判所での検認手続きも不要になるメリットがあります。もうひとつの自筆証書遺言は、遺言者が自分で作成した遺言書です。費用がかからず遺言の内容を秘密にできるメリットがありますが、家庭裁判所での検認手続きが必要です。
遺産分割協議によって分割する
親の遺言書がない場合は、遺産分割協議を行うのが一般的です。遺産分割協議とは、誰がどのように遺産を相続するのか、相続割合について相続人が集まって話し合う手続きです。法律の定めはありませんが、協議によって、遺産分割の割合に関して相続人の合意を得られます。
遺産分割協議では、遺産分割の割合を自由に決定できるのが特徴です。基本的に遺産分割は法定相続分(法律で定められた相続割合)が目安となりますが、協議の結果、相続人の全員が納得できれば、どのような割合でもかまいません。
ただし、遺産分割協議による相続割合を有効なものとするには、兄弟をはじめとした相続人全員が遺産分割協議に参加する必要があります。また協議がまとまったら遺産分割協議書の作成も必要です。話し合いの内容と結果を書面の形で残し、かつ全員の署名と実印による押印をすることで、後でトラブルになったときの証拠を残せます。
法定相続割合で共有分割する
相続に関する親の遺言書がなく、かつ遺産分割協議もしなかった場合は、民法で定められている法定相続割合に基づいて遺産を共有分割します。
共有分割とは、全員で共有している遺産を分割することを指します。相続人が複数いる遺産相続の場合、原則として相続財産は相続を開始した時点で相続人全員が共有している状態(共同相続)です。この共有している遺産に対する権利を法律に沿って分割するのが共有分割です。
それでは、実際に法定相続割合による共有分割はどのように行われるのでしょうか。民法では法定相続人の範囲と優先順位、法定相続分に関して下記のように定めています。
亡くなった人との間柄 | 法定相続人の優先順位 |
---|---|
配偶者 | 常に相続人 |
子ども(子どもが亡くなっている場合はその子ども、孫などの直系卑属) | 第1順位 |
父母(父母が亡くなっている場合はその父母や祖父母などの直系尊属) | 第2順位 |
兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合はその子ども) | 第3順位 |
法定相続人 | 法定相続分 | |
---|---|---|
配偶者と子ども | 配偶者 2分の1 |
子ども 2分の1を人数で分ける |
配偶者と直系尊属(父母など) | 配偶者 3分の2 |
直系尊属(父母など) 3分の1を人数で分ける |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者 4分の3 |
兄弟姉妹 4分の1を人数で分ける |
※出典:国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」
民法が定める法定相続割合は、あくまでも遺言書がなく遺産分割協議も行われなかった場合に適用されるものであり、必ずしもこの割合で相続するわけではありません。遺産相続は遺言書がなければ遺産分割協議を行い、それもなければ法定相続分で共有します。不動産を相続するときも、ケースによって相続の方法が変わることを知っておきましょう。
相続した不動産を共有分割するデメリット
相続した不動産は、その権利を法定相続分で分割すれば登記できますが、共有状態である実態は変わりません。共有状態の場合、個々の相続人が自分の判断だけで財産を処分できないという問題があります。
たとえば、共有財産の家や土地を売却したり取り壊したりする場合、共有者全員の同意が必要です。何らかの事情があって不動産を売って利益を得たいと思っても、共有者全員の同意がなければ売却の手続きに入ることもできません。
そのため相続した不動産を将来的に売却することを想定するなら、共有状態が維持されたままにせず分割するのが賢明です。共有状態を維持して次の代まで引き継ぐと、共有する人数がさらに増え、ますます処分しにくくなります。
相続人がそれぞれ自分の判断で自由に相続した不動産を処分できる状態にしたいなら、共有状態は解消しておいたほうがよいでしょう。
兄弟で不動産を相続するときの分け方は?
兄弟間で争いを起こさず円満に親の不動産を分割したいなら、相続人全員で話し合って決める遺産分割協議による分割が一般的です。実際に協議によって決められる遺産の分割方法には、以下の3種類があります。
- 現物分割
- 換価分割
- 代償分割
ここからはそれぞれの分割方法の特徴や、メリット・デメリットを紹介します。
物理的に不動産を分ける「現物分割」
現物分割とは、文字どおり相続財産を換金せず、現物のまま分割して相続する方法を指します。例えば、家と土地がある場合は家・土地の2つに分けて、それぞれ別々の人間が相続することが可能です。土地のみの場合でも、土地を分筆(複数の土地に分ける)することによって、複数の相続人が土地を分割して相続できます。
現物分割のメリットは、それぞれの相続人が相続した不動産を自由に使えることです。共有分割では持ち分の割り当てはあっても、1人だけの判断で自由に貸し出したり処分したりすることはできません。現物分割なら、相続した人それぞれが独立した権利を有する不動産を物理的に相続できるため、自由に運用・売却することが可能です。
一方で現物分割のデメリットは、土地が狭い場合に利用価値が下がってしまうことです。ある程度の広さを持つ土地であれば、複数に分けても活用方法があります。しかし、たとえば20坪しかないような狭小地の場合は、活用方法がほとんどなく利用価値が下がってしまうでしょう。
売却して現金を分ける「換価分割」
換価分割は遺産を売却して現金化し、その現金を相続人の間で分ける方法です。現物での相続を望まない場合や、不動産の有効な活用方法が見つからない場合に適しています。
兄弟間の不動産相続で換価分割を選ぶメリットは、スムーズかつ公平な分割ができることです。遺産として相続した不動産が現物のままだと、平等に分けるのが難しくなります。しかし家でも土地でも換金してしまえば、その売却益を自由な割合で分割可能です。たとえば3,000万円で不動産が売れたとしたら、配偶者に1,500万円、子ども2人に750万円ずつのように、公平かつバランスよく分割できます。
一方、換金するまでに時間や費用がかかる、所得税や住民税など売却益に対する納税義務が発生するなどのデメリットもあります。また家と土地を相続した場合、相続人の誰かが換金したいと思っても、別の相続人がその家にまだ住みたい場合や土地活用を希望している場合、換価分割は選べません。換価分割は相続人全員が売却を望む場合に有効な方法です。
相続の不公平を現金で調整する「代償分割」
代償分割とは、相続人の一部が多くの財産を相続した場合、他の相続人との取り分に大きな差が生じる問題を解消するため、自分の財産を他の相続人に渡して代償する分割方法です。
たとえば遺産が家屋しかない場合、以下のような代償分割の方法が考えられます。
- 相続人の1人が遺産である家屋をすべて相続する
- 家屋の評価額を相続人の人数で割る
- 家屋を相続した相続人が、他の相続人それぞれに対して2で算出した額の現金を渡す
このように平等な分け方ができる代償分割を選択すれば、相続に際する不公平感をなくしつつ、スムーズな分割を実現できるでしょう。
一方で代償分割を行うためには、代償金を支払えるだけの経済力が必要です。また代償金の算出方法によっては、かえって不公平感が増しトラブルに発展する可能性もゼロではありません。代償分割を選ぶ場合は、遺産分割協議でよく話し合って代償金の額を決めましょう。
兄弟での不動産相続では「相続放棄」も選択肢
相続権を有する兄弟のうち1人に親の不動産をすべて相続してもらいたい場合は、相続放棄という選択肢もあります。兄弟が3人いても、2人が相続放棄をすれば、結果的に残り1人が不動産を相続することになります。
ここからは遺産分割協議との違いや相続放棄のメリットなどについて見ていきましょう。兄弟で親の不動産を相続するときの参考にしてください。
遺産分割協議との違い
兄弟の1人にすべての遺産を相続させたいなら、遺産分割協議も選択肢に入ります。相続割合について相続人同士で協議を行い、誰か1人の割合を100%にして、他の相続人の割合を0%とすればよいでしょう。
結果的に1人にすべての遺産を相続させるのであれば、1人を除いた全員が相続放棄をするのと変わらないように思うかもしれません。しかし相続放棄と遺産分割協議では、手続きのプロセスが異なります。
たとえば相続放棄では、相続を放棄したい人が他の相続人と話し合う必要はなく、単独で相続放棄を決められます。一方で遺産分割協議の場合は、割合が0%の相続人も含めた相続人全員で協議して決定しなければなりません。
また相続放棄の場合は家庭裁判所での手続き(相続放棄の申述申立て)が必要ですが、遺産分割協議では家庭裁判所での手続きは不要です。
兄弟の不動産相続で相続放棄を選ぶメリット
家や事業の承継を目的として、兄弟の1人に親の不動産を相続させることがほぼ決まっている状況なら、他の兄弟が相続放棄を選択する方法が便利です。
遺産分割協議をすると、兄弟全員で話し合いをしなければならない上に、書面にまとめる手間もかかります。しかし相続放棄であれば相続をしない兄弟それぞれが単独で手続きを進められるので、話し合いや書面にまとめる手間がありません。さらに自分で手続きをすれば費用は約5,000円に抑えられ、スピーディかつ少ない負担で相続を行えます。
また家を継がない兄弟が、相続を通じて負債まで引き継いでしまうリスクを避けられることも、兄弟の不動産相続で相続放棄を選ぶメリットです。他にも、余分な時間を奪われずに済む、相続を巡ってのトラブルやストレスを回避できるなど、さまざまな相続放棄のメリットがあります。
親の不動産を相続するための準備
親の不動産をスムーズに相続するためには、事前の準備が必要です。しかし初めての相続ではどう進めればよいか迷ってしまうかもしれません。細かい手順や流れは相続の方法や分割の仕方によって異なりますが、基本的な部分は共通しています。ここからは相続の準備として具体的に何をすればよいかを確認していきましょう。
遺言の有無・相続人は誰かを調べる
相続にあたって最初に取るべき行動は、被相続人である親の遺言書があるかどうかを確認することです。前述したとおり、相続では原則として遺言書の内容が最優先とされ、これに沿って手続きを進められます。法定相続分や遺産分割協議よりも優先されるのが遺言書です。
遺言書が見つかったら、遺言書の種類(自筆証書遺言・公正証書遺言など)に応じた手続きを行い、遺言の内容を確認しましょう。
調査の結果、遺言書がなかった場合は、遺産分割協議を行います。遺産分割協議を始めるには、まずは遺産分割協議に参加すべき法定相続人を決め、相続人の確定をしなければなりません。亡くなった人(被相続人)の戸籍謄本をチェックすることで、誰に相続権があるのかが分かります。被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を取得し、家族関係を確認しましょう。
ただし戸籍謄本の取得には想像以上に時間がかかる場合もあるため、できるだけ早めに役所へ申請する必要があります。取得するのが難しい場合は、弁護士や行政書士などの専門家に依頼するのも選択肢です。
すべての相続財産を把握する
親の不動産をどのように相続し分割するかを話し合う前提として、相続財産をすべて把握しておくことも重要です。財産にはプラスの財産とマイナスの財産があること、相続財産の中には相続税の対象となる財産もあることに注意しましょう。
プラスの財産は資産となる財産のことですが、マイナスの財産とは滞納金や借金といった負債を意味します。これらも相続財産に含まれるため、よく確認して計算に入れておきましょう。
相続税の課税対象となる財産には、例として以下のような財産が挙げられます。(※)
- 死亡退職金や被相続人が保険料を負担していた生命保険の死亡保険金など
- 被相続人から生前贈与を受けたが、贈与税の納税猶予の特例を受けていた農地・事業用の資産・非上場会社の株式など
- 教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与で贈与税が非課税となった場合の管理残額
- 被相続人が亡くなる3年以内に贈与を受けた財産
- 相続時精算課税の適用を受けて被相続人の生前に贈与された財産
※出典:国税庁「No.4105 相続税がかかる財産」
どのように相続するかを決める
遺言の有無や相続人の確認、すべての相続財産の把握が終わったら、最後はどのように相続するかを決定します。相続の方法は、遺言書・遺産分割協議による分割(代償分割を含む)、共有、相続放棄などさまざまな方法があります。
相続の方法によって必要な手続きの仕方も変わるため、状況に合わせてよく検討し、話し合って決めることが大切です。
相続の仕方を検討する際は、それぞれの方法のメリットやデメリットを比較しましょう。これまで紹介してきた複数の相続方法には、それぞれ利点と問題点があります。また、手続きにかかる流れや負担の度合いなども異なるため、比較した上で自分たちに適した相続方法を決めることが重要です。
相続に関する基本事項を理解した上で準備を徹底しておけば、不要な争いやトラブルを避けられ、相続人の誰もが納得できる相続を目指せるでしょう。
不動産を相続したら相続登記の申請を
不動産を相続したら、できるだけ早めに相続登記を申請しましょう。不動産の相続登記とは、被相続人から相続人への名義変更を行う手続きです。相続が済んだと同時に自動的に名義が変更されるわけではなく、相続した不動産が所在する地域を管轄する法務局に申請した上で、自ら名義変更の手続きをしなければなりません。
相続登記により、不動産の所有者が被相続人から相続人へ変更したことが確定します。新しく所有者となった相続人は、相続した不動産の名義が自分に変われば、使用・収益・処分といった権利の行使が可能です。もちろん自分の判断で売却もできるようになります。ただし共有分割のまま相続登記をした場合、不動産処分には相続人全員の同意が必要です。
とはいえ、2023年8月時点で不動産の相続登記は法的に義務ではないため、申請しない選択肢もあります。相続登記をするかしないかは任意であり、しなくても法的には問題ありません。
ただし相続登記をしない場合、以下のようなデメリットが発生します。
- 相続した不動産を売却できない
- 相続した不動産を差し押さえられる可能性がある
- 次の相続が発生したときの遺産分割協議が難しくなる
相続登記をしないまま放置することは、将来的に不利益を被る可能性が高いと覚えておきましょう。現時点では義務ではなくても、後々のことを考えて相続したら速やかに相続登記を済ませることをおすすめします。
2024年4月から相続登記申請が義務化
不動産の相続登記は2023年8月時点では義務づけられていませんが、2024年4月1日からは、相続から3年以内の相続登記申請が義務化されます。(※1~2)
不動産の相続登記が義務化される背景には、相続登記を行わないことによって、全国各地で所有者の分からない不動産が増加しているという問題があります。きちんとした管理が行き届かない所有者不明の土地は、周辺の環境を悪化させたり近隣に悪影響を与えたりするなどの社会問題を引き起こしています。
このような問題を受けて2021年に可決成立、公布に至った「民法等の一部を改正する法律」「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」に基づき、2024年4月1日から不動産の相続登記が義務化されることになりました。
※1 出典:法務省「民法等の一部を改正する法律案」
※2 出典:法務省「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律案」
なお、相続登記が義務化されるのは2024年4月1日からですが、それ以前に相続した不動産についても、相続登記申請が済んでいない場合は2027年3月31日までの相続登記が義務化されます。(※3)義務化以前に不動産を相続することになった場合も、早めに申請手続きを済ませておいたほうが後々の手間を減らせるでしょう。
※3 出典:法務省「不動産を相続した方へ ~相続登記・遺産分割を進めましょう~」
親の不動産を兄弟で円満に相続するポイント
親の不動産を兄弟で相続する際、争わず円満に進めるポイントは、早いうちから兄弟で不動産の相続について話し合っておくことです。
たとえば遺言書がない場合に行う遺産分割協議では、割合を決めるのに相当な時間がかかることが想定されます。もし事前にどの程度の割合で親の遺産を受け取るかが決まっていれば、遺産協議が難航せずスムーズに進むでしょう。
また遺産の分割方法に関しては、現物分割や換価分割など複数の選択肢があり、兄弟間で意見が割れるケースもあります。しかし早いうちから話し合っておくことで十分に時間を使ってそれぞれの分割方法を検討しながら、ベストな決定を目指せます。
さらには相続税の申告・納付期限は、被相続人が亡くなったことを知った日(通常の場合は、被相続人が亡くなった日)の翌日から10カ月以内と定められているため、遺産分割協議が進まないと期限に間に合わない可能性があります。(※)
※出典:国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」
相続税の申告のことも考えて、できるだけ早い時期に兄弟間で話し合う場を設け、相続が開始してから協議がまとまるまでの時間を短縮できるよう動きましょう。
相続した不要な不動産は売却するのがおすすめ
せっかく親から不動産を相続したとしても、兄弟の誰にとっても必要ないというケースがあるかもしれません。このように不要な不動産を相続した場合は、早めに売ってしまうのがおすすめです。不要な不動産を早めに売却することには、複数のメリットがあります。売却するか現物を相続するか迷っている場合は、売却にどのような利点があるかを知って判断の参考にしましょう。
換価分割で相続人間の不公平を解消できる
前述したとおり、換価分割は相続した不動産を売却して得た現金を分割する方法です。この方法は、相続人間の不公平をなくしたい場合に適しています。
たとえば兄弟2人で、兄が3,000万円の不動産、弟が1,000万円の現金をそれぞれ相続することで納得していたとしましょう。しかし被相続人(親)が亡くなる前に何らかの病気にかかって医療費などの支出が多くなると、相続開始時の現金が減ってしまい、不動産の割合が予想以上に大きくなることもあり得ます。
このような状況で仮に兄の3,000万円(不動産)はそのまま、弟の1,000万円(現金)だけが500万円に減った場合、弟の不満が高まる事態が十分に考えられます。事前の相談のとおりに進まず、大きなトラブルに発展しかねません。
そこで相続時に発覚した不平等を解消するのに役立つのが、換価分割という選択肢です。相続した不動産を売却して換金し、相続人全員に現金で遺産を分ける形にすれば、遺産を平等に分割できます。相続した不動産を手元に残したい事情がなければ、換価分割を選ぶことで兄弟間での円満な分割が可能です。
維持管理の負担がなくなる
不動産を相続した相続人は資産を得られると同時に、維持管理の負担を抱えることにもなります。現物分割・共有分割・兄弟1人を除いた相続放棄などの方法を問わず、誰も使わない家や土地を所有し続けると、維持・管理のコストや手間がかかるのがデメリットです。とはいえ不要だからといって放置してしまうと、地方公共団体(自治体)によっては空き家に指定されて過料が発生するケースもあります。
実際に相続した不動産を使用する、事業に活用する、資産運用に使うといった活用の見通しがなければ、維持管理の負担が増える一方になってしまうでしょう。
将来的に兄弟の誰も活用できないと判断した不動産は、早めに売却するのがおすすめです。売却すれば、修繕費や固定資産税、保険といった維持管理のコストや労力が必要なくなり、管理にあたってかかるストレスからも解放されます。
遺産から相続税を支払えるようになる
相続した不動産の取得金額が相続税の基礎控除額以上だった場合、相続人は相続税を納めなければなりません。相続税の基礎控除額は、以下の計算式で求めます。(※1)
相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
※1 出典:国税庁「財産を相続したとき」
相続税を支払うときの注意点は、原則として現物の遺産からは支払えず現金が必要になる点です。申請をすれば現物で納める物納も可能ですが、納付が難しい事情がある場合に納めきれない額を限度とする制度である上、不適格とされる不動産だった場合は物納に使えません。(※2)
※2 出典:国税庁「No.4214 相続税の物納」
日本の相続税は累進課税制度を採用しているため、相続する遺産が高額な場合は相続税も高くなってしまいます。下記の表に取得金額ごとの税率と控除額をまとめたので参考にしてみてください。
法定相続分に応じる取得金額 | 税率(/%) | 控除額(/円) |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10 | – |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15 | 50万 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20 | 200万 |
5,000万円超~1億円以下 | 30 | 700万 |
1億円超~2億円以下 | 40 | 1,700万 |
2億円超~3億円以下 | 45 | 2,700万 |
3億円超~6億円以下 | 50 | 4,200万 |
6億円超~ | 55 | 7,200万 |
※出典:国税庁「財産を相続したとき」
表のとおり相続した遺産の金額が高くなればなるほど、相続税の税率も上がっていく仕組みです。十分な現金の用意がなければ、価値の高い不動産を相続したときに、相続税が払えなくなる可能性があります。支払えたとしても相続税の納付によって、手元の資金繰りが苦しくなるケースもあるでしょう。
換価分割で不動産を売却してしまえば、相続人が相続税の支払いに使える現金を増やせるのがメリットです。不動産を売って得た現金は相続人それぞれの財産になるため、相続税の納付にも他の用途にも自由に使えます。
相続した不動産を売却するときの注意点
相続した不動産を売却する際には、注意しておきたい問題点もあります。具体的には、以下のような注意点があります。
- 共有名義の場合は全員の同意が必要
- 将来的な利益を逃してしまう可能性がある
- 換価分割には贈与とみなされないための手続きが必要
売却するタイミングで予想外のデメリットに悩まないために、どのように対策するかをあらかじめ考えておきましょう。
共有名義の場合は全員の同意が必要
複数の人間で相続した共有名義の不動産を売却するときは、名義人全員の同意が必要です。(ただし共有持分のみを売却する場合には、同意は不要)
この場合の同意には以下の2段階が考えられます。
- 売却することへの同意
- 不動産の売却価格への同意
この2つの同意を得ることで、スムーズな売却を実現できるようになります。
特に争点になりやすいのは、不動産の売却価格でしょう。売却価格への同意をスムーズに得るためには、最低売却価格を設定するのがポイントです。最低売却価格は、それ以下の価格では絶対に売らないと定めた下限の価格を指します。あらかじめ最低売却価格を決めておけば、相続人全員が何度も集まり価格について話し合う手間が省けるでしょう。
最低売却価格の設定方法については、査定価格の中で最も低い価格を基準に検討するのがよいでしょう。
将来的な利益を逃してしまう可能性がある
不動産の用途や価格に関しては、将来的にさまざまな状況の変化が考えられます。たとえば用途について、相続を開始した時点では使い道がなく不要だと思っても、時間の経過とともにライフスタイルが変わり、土地を取得して家を建てたいと考えるようになるかもしれません。また家を相続した場合はその時点では不要でも、将来的には貸し出して家賃収入を得たいと考える可能性もあります。
不動産の価格についても同様です。不動産の価格は変動するものであり、将来的には相続した時点の価格より高騰するかもしれません。相続してすぐ売却した場合、将来的に得られる可能性があった大きな利益を逃してしまうことになります。
相続した不動産を売却する際は、短期的な視点で利益を追求するのではなく、将来の状況も考えて動くのが賢明です。ライフスタイルや市場の変化を想定しつつ、相続した不動産が長期的に見て利益を出せるのか、所有と売却どちらが得になるのかという視点で判断するとよいでしょう。
換価分割には贈与とみなされないための手続きが必要
親の不動産を相続する際に換価分割を利用する場合は、現金を受け渡ししたときに贈与とみなされないための手続きが必要です。
換価分割において、誰か1人の所有とする「単独登記型」で売却すると、売却後に所有者が現金を分割して相続人に配る行為が贈与とみなされる可能性があります。贈与の扱いになってしまうと、当該不動産を売却して得た現金に対して、贈与税を支払わなければなりません。
共有の状態で相続登記をして売れば「共同登記型」になるため、特定の相続人から他の相続人への贈与とみなされる心配はありません。ただし一部の相続人が遠方に住んでいる、何らかの事情で協議が難しいといったケースでは、1人だけ代表者を決めて登記をする単独登記型で換価分割をします。
相続した不動産の換価分割で単独登記型を選ぶときは、遺産分割協議書に換価分割をする予定である旨を明記しておくことが大切です。これによって、贈与税の課税対象となるのを回避できます。
相続した不動産を売却する流れ
相続した不動産を売却するまでの主な流れは、以下のとおりです。
- 不動産会社に売却を相談
- 不動産会社と媒介契約を締結
- 販売活動
- 購入希望者との条件交渉
- 買主と売買契約を締結
- 引き渡し
不動産の売却は、不動産会社への売却相談から始まります。相談方法は一社ずつ個別に問い合わせるほか、一括査定サービスを利用して複数の不動産会社にまとめて査定依頼を出すことも可能です。
売却の依頼先が決まったら、不動産会社と媒介契約を結び、不動産の販売活動に進みます。販売活動とは広告やチラシを出して売り出したい不動産の宣伝を行うことです。不動産会社と媒介契約を結んだ場合は、不動産会社が宣伝を全面的に担当します。
買主が見つかったら、売却価格や契約希望日、引き渡し日などの条件交渉をするのが一般的です。売主と買主の双方が納得したら、売買契約を締結します。売買契約後、不動産の引き渡しを済ませたら、売却は完了です。
また不動産を売却した後は、譲渡所得にかかる所得税の確定申告を行わなければなりません。譲渡所得は不動産や金融資産を売って得た所得のことです。所得税の課税対象となる課税譲渡所得の金額は、以下の計算式で表されます。
課税譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
課税譲渡所得は他の所得と分けて15%または30%の税率をかけ、所得税の額を算出する決まりです。(※)換価分割を選ぶ場合は、譲渡所得にかかる所得税も考慮して予算計画を立てましょう。
※出典:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
- 複数の不動産会社で査定したい
- 早く売却して、ローンに充てたい
- 遠方にある物件なので地元の不動産会社に依頼したい
- いまの物件価値を知りたい
- どの不動産会社に相談していいのかわからない
相続した不動産の評価方法は?
不動産の売却価格は、実際に査定してもらうまで正確な金額は分かりませんが、一般的には評価額の約7割が目安といわれます。評価額とは、不動産にかかる税金を計算する際の指標となる不動産の基準価格です。評価額を知っておくと、相続した不動産を売却するかどうか迷っているときに判断する目安になるでしょう。評価額から相続税の計算もできます。
ここからは土地・家・その他の不動産の評価方法を紹介します。自分で不動産の売却価格の目安を調べる際の参考にしてみてください。
土地の場合
土地の評価には国が納税額を確定するために算出した評価額と、市場における自由な取引の結果として生まれた実勢価格という2つの概念があります。一般に土地の評価額と呼ばれるものは前者に該当します。
実勢価格ではない標準的な土地の評価方法は、「路線価方式」と「倍率方式」の2種類です。
路線価方式では、土地の評価額を路線価に基づいて算出します。路線価は、路線(道路)に面する標準的な宅地1m²あたりの価額を表す指標です。路線価に土地の奥行きや形状、利用上の法的制限などの状況に合わせた画地調整率によって補正を加え、土地の面積を乗じて計算すると路線価方式の評価額が決まります。
一方で倍率方式は、路線価が定められていない土地の評価方法です。倍率方式による土地の評価額は、以下の計算式で算出します。
倍率方式による土地の評価額=固定資産税評価額×倍率
固定資産税評価額とは、国が定めた固定資産評価基準によって決まる土地や家屋の評価額です。役所・役場や都税事務所で確認できます。倍率は国によって地域ごとに定められており、国税庁による「財産評価基準書」のページから確認が可能です。(※)
※参考:国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」
家屋の場合
住居・店舗・倉庫など家屋の評価方法は、固定資産税評価額と同様です。家屋の評価額は住んでいる地域の役所・役場や都税事務所で確認できる固定資産税評価額に、1.0を乗じて算出します。(※)
※出典:国税庁「No.4602 土地家屋の評価」
たとえば、ある家屋の固定資産税評価額が3,000万円なら、その家屋の評価はそのまま3,000万円です。土地と違って計算が必要なく確認が簡単なので、役所・役場で調べるだけですぐに分かります。
その他の場合
貸地や賃貸物件については、不動産ごとの権利関係に応じて調整が行われ、ケースバイケースで評価額が決まります。また居住用や事業用として使われている土地に関しては、限度面積まで評価額を下げられる相続税の特例があり、相続税を一定の割合で減額できるのがメリットです。
マンションの評価額は、敷地権(土地)と区分所有する建物の評価額を合計することで算出します。敷地権(土地)の評価額は、マンションの敷地全体の評価額に区分所有する建物にかかる敷地権の割合を乗じて算出し、区分所有する建物の評価額は固定資産税評価額によって評価します。
※出典:国税庁「No.4602 土地家屋の評価」
相続した不動産をできるだけ高く売るコツ
遺産として相続した不動産は、とにかくすぐに売却すればよいとは限りません。タイミングによっては、売却することで相続財産としての価値が大きく下がってしまう可能性があります。
親から相続した不動産をできるだけ損せず売りたいなら、タイミングを考慮するなど高く売却する工夫が必要です。ここからは不動産売買の経験がない人でも試せるコツを紹介します。
売却のタイミングは年度末を狙う
相続した不動産を少しでも高く売りたい場合は、売るタイミングを考えることが大切です。不動産の売却相場は時期によって変動しており、高く売れる時期とそうでない時期があります。狙い目は年度末です。
翌年4月の人事異動や子どもの入学、卒業などに向けて、1〜3月に新居を探す人が増えます。不動産の購入希望者が増えるので、自然と売却相場も上がり高く売れるのです。
年度末以外だと、7〜8月もおすすめのタイミングです。この時期は、9月の人事異動に向けて新居探しをする人が多くなります。やはり全体としては売り手市場となるので、高く売れる可能性があるでしょう。
ただし9月に入ると、売却相場は下がり売れにくくなることに注意が必要です。年度末の場合も、売却相場が上がりやすいのは1~3月で、4月に入ってしまうと売れなくなります。人事異動であれ引っ越しであれ、新生活をスタートさせる一歩手前のタイミングが高く売れる絶好の機会です。
売りたい不動産の強みを把握しておく
不動産売却では買主による値引き交渉が想定されるため、売り出し価格は高めに設定したほうがよいでしょう。ただしその価格に見合うだけの魅力がなければ、買主は見つかりにくいことも知っておきたいポイントです。
空調や水回りの設備が充実している、周辺に交通機関や商業施設が整っていて生活の利便性がよい、騒音が少ないなど、その家に住みたいと感じられるポイントを把握してアピールする必要があります。魅力をうまく押し出せている不動産は、価格を少し高めに設定しても買主を見つけやすいでしょう。
また、価格設定が売却相場から大きく離れていても買主は見つかりにくい傾向にあります。買主は相場に照らして不動産を探しており、高すぎたり安すぎたりする価格の不動産は不審がられてしまいます。希望に近い価格で売るためにも事前に徹底して売却相場をリサーチし、適正の範囲内で売り出し価格を設定することが大切です。
一括査定サービスを活用する
不動産を高く売る方法として、一括査定サービスの活用が有効です。一括査定サービスは複数の不動産会社にまとめて査定依頼ができるサービスです。
査定価格は不動産会社によっても異なります。少しでも高く売るためには、できるだけ多くの不動産会社に査定依頼をして適正価格を見極めましょう。しかし複数の不動産会社に一社ずつ査定依頼をするのは、手間や時間がかかってしまいます。
そこでおすすめなのが不動産の一括査定サービスです。一括査定サービスであれば一度情報や条件を入力するだけで、複数の不動産会社にまとめて査定を依頼できます。手間なく査定価格を比較でき、適正価格を提示している不動産会社を見つけやすいでしょう
相続した不動産をできるだけスムーズに高く売りたいなら、ぜひ一括査定サービスを利用してみてください。
まとめ
親の不動産を兄弟で相続するにあたって、原則として遺言書の内容が優先されますが、遺言書がない場合は遺産分割協議で決めた割合で分けたり、法定相続割合で共有分割したりします。
兄弟で親の不動産を相続する場合、現物として分割する以外に、不動産を売って現金を分割する換価分割や、1人のみの所有として他の兄弟が相続放棄する方法もあります。
不要な不動産を相続した場合は、換価分割をしたり1人にすべての不動産を預けて処分しやすくしたりして売却を検討してみてください。売却すれば維持管理が不要となり、現金化した上で遺産を適切に分割できるため、相続の際の不満やトラブルを解消しやすくなります。
不動産の売却にあたっては、自分に合った不動産会社に依頼することが大切です。売却の実績があり、信頼できる不動産会社に依頼するようにしましょう。不動産会社選びには、不動産の一括査定を依頼できる「リビンマッチ」がおすすめです。パソコンやスマートフォンから簡単な入力をするだけで最大6社の不動産会社に査定を依頼できます。大手不動産会社から地元の不動産会社まで全国のさまざまな不動産会社が参加しているので、自分に適した不動産会社を見つけやすいでしょう。リビンマッチの一括査定には利用料がかかりません。不動産を売却するときはお気軽に利用してみてください。
- 複数の不動産会社で査定したい
- 早く売却して、ローンに充てたい
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この記事の編集者
リビンマッチ編集部
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