【不動産】売り出し価格と成約価格の乖離率|希望価格で売る最短ルート
売り出し価格と実際に売れた価格の差を示す、乖離率。この数値が大きいほど、売り手と買い手の価格交渉が難しくなるため、不動産を売却予定の方は特に気になる数値でしょう。
どうすれば乖離率を小さくし、希望価格で売れるようになるでしょうか。売り出し価格と成約価格の乖離率の平均や傾向、そして早期に高く売るために、希望価格で売る最短ルートをわかりやすく解説します。
もくじ
【事前知識】売り出し価格と成約価格の違いって?乖離率とは
売り出し価格と成約価格という言葉を、不動産を売るときによく耳にします。ここでは、売り出し価格と成約価格の違い、またこの2種類の不動産価格と関連深い重要な指標、乖離率について説明します。
売り出し価格は売主が決めた販売価格
売り出し価格は、不動産を売り出す際に売主が決めた販売価格です。
売主が不動産を売り出す際は、不動産仲介会社が直近の売買事例や物件の状態を踏まえた査定価格を、売主に提示します。しかし、この査定価格が売り出し価格になるわけではありません。
売り出し価格の決定権は、売主にあるためです。査定価格どおりにされる方もいれば、査定価格より高い金額、もしくは安い金額にされる方もいます。
売却希望価格と査定価格、またそのほかの判断材料を勘案して、最終的な売り出し価格を決定します。
成約価格は実際に売れた金額
成約価格は、実際に不動産が売れた価格です。取引価格とも呼ばれます。
「高く売りたい」売主と「安く買いたい」買主が交渉し、売買が成立しますから、成約価格は売り出し価格より低くなることがあります。
たとえば、相手に自分の要求を呑ませるテクニックとして、行動心理学のひとつ「ドアインザフェイス」が使われるのは珍しくありません。断られることを想定して、あえて最初に無理な要求をしたあとに、要求レベルを下げてお願いする方法です。有名な方法ですから、一般の方でも知っている方は多いでしょう。
頼みを断ると罪悪感を抱くのが人間ですから、小さな要求つまり「低価格の値下げなら」と考え、値下げ交渉に応じてしまう心理を利用しています。実際、売主の希望価格は3,000万円なのに、2,000万円といわれたらどうでしょう。1,000万円もの値下げをされているわけですから、交渉に応じるケースはまれでしょう。
その後、値下げ額について謝罪され、「買主の事情で仕方なく」などの同情を誘い、現実的な100万円の値下げ価格を提示されたらどうでしょう。100万円なら、と思ってしまうかもしれません。また半額の50万円ならと、なるかもしれません。少なくとも、「1万円の値下げに応じない」という選択肢を取られる方は、そう多くないでしょう。
金額の差はあれど、結局値下げに応じてしまうケースが少なくないのです。
売却スピードを優先するなら、要求に応えるのも方法のひとつですが、売却価格を優先するなら、こうした交渉の心理学についても勉強し、心理戦で負けないようにしましょう。
乖離率は、成約価格と売り出し価格の差の比率
乖離率は、個別の不動産物件に対し、以下の式で計算されます。
乖離率(%)=(成約価格 - 売り出し価格)÷ 売り出し価格 × 100
たとえば、売り出し価格が3,000万円、成約価格が2,700万円の場合、乖離率は-10%です。
【戸建てとマンション】不動産の売り出し価格と成約価格の乖離率
売り出し価格、成約価格、乖離率を説明する際、東日本不動産流通機構(通称:東日本レインズ)が公表しているデータを利用するケースがあります。
さっそく、データをもとに乖離率を見ていきましょう。
首都圏中古戸建の売り出し価格と成約価格の推移
以下は東日本レインズの調査結果をもとにした、2022年7月~2023年7月の中古戸建の売り出し価格と成約価格の推移です。
参考:東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch サマリーレポート 2023 年 7 月度」
なお、東日本レインズは、会員不動産会社が同機構に報告する売買物件に関する情報を集計し、これらのデータを公表しています。
2023年7月は中古マンションの成約㎡単価が新規登録㎡単価を上回った
ここでは、東日本レインズの中古マンションの成約㎡単価と新規登録㎡単価のデータが、何を意味するか見てみましょう。
中古マンションの成約㎡単価と新規登録㎡単価の定義は、以下のとおりです。
- 成約㎡単価
- 当月に東日本レインズに成約報告のあった物件の㎡単価の平均値
- 新規登録㎡単価
- 当月に東日本レインズに新たに登録のあった(新規の売り出し物件)の㎡単価の平均値
東日本レインズのデータによると、2023年7月に首都圏中古マンションの成約㎡単価が、新規登録㎡単価を上回るという逆転現象がおきました。
参考:東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch サマリーレポート 2023 年 7 月度」
この数字をみて「売り出し価格よりも高い価格で成約できるのか。それなら、売り出し価格を高く設定しよう」と考える人がいるかもしれませんが、それは早計な判断です。
東日本レインズの成約㎡単価と新規登録㎡単価からは、乖離率を計算できない
結論からいうと、東日本レインズの成約㎡単価と新規登録㎡単価を使って乖離率は計算できません。
東日本レインズの新規登録㎡単価は、当月の登録のあった物件の㎡単価の平均値です。その月に成約した物件との関係は明らかではありません。新規登録㎡単価は成約した物件だけでなく、成約していない物件も含めたすべての新規登録物件の㎡単価の平均です。
さらに、7月に成約した物件の中には、6月末時点の在庫物件も含まれているはずです。
東日本レインズの中古マンションのデータでは、6月および7月の新規登録件数、成約件数、月末の在庫件数は以下のようになっています。
- 2023年6月末の在庫件数
- 4万5,872件
- 2023年7月の新規登録件数
- 1万7,131件
- 2023年7月の成約件数
- 3,236件
このデータをもとにすると、6月末の在庫件数4万5,872件と7月の新規登録件数1万7,131件の合計となる6万3,003件の物件のうち、約5%の3,236件が成約したことになります。
7月の新規登録件数1万7,131件は、7月に成約した件数の母数であるべき6万3,003件の3割弱です。そのため、7月に成約した物件の中には、6月以前に新規登録された物件、つまり6月以前に売り出した物件が、相当数含まれていると考えられます。
このように、東日本レインズの成約㎡単価と新規登録㎡単価の差の比率を求めても、実際の成約物件の乖離率とは関係のない数字になります。つまり、7月の成約㎡単価が新規登録㎡単価を上回ったからといって、売り出し価格よりも高い価格で中古マンションが成約されているとはいえないのです。
なお、成約㎡単価が新規登録㎡単価を上回っても、市場には多くの中古不動産の在庫が存在します。不動産は個別性が強いため、条件の合う買主が現れない不動産はいつまでも売れません。
東日本レインズの公表データは、市場全体の大まかなトレンドを把握するには有効です。しかし、個別の不動産取引とは切り離して考える必要がありますから、注意しましょう。
「リビンマッチ」で査定依頼後に売却された1,926名の乖離率平均は?大多数が0~20%以上
不動産の一括査定サイトリビンマッチでは、売り出し価格と成約価格の乖離率を独自調査しました。
このデータは、リビンマッチがメールやラインを通じて独自で実施したアンケートにもとづいています。
具体的にはリビンマッチを利用したユーザーの1,926件の回答から、以下の条件に当てはまる423件の有効回答を集計しました。回答期間は2023年6月~8月で、物件種別は戸建て・マンション・土地を問いません。
- 成約価格と売り出し価格が記載されている
- 0や1など明らかに間違いだと思われる外れ値は除外
- 乖離率が100%以下
売り出し価格と成約価格の乖離率(2023年6月から8月のまとめ)
6月~8月分のデータをすべてまとめて集計しました。傾向を知りたいときにご利用ください。
売り出し価格と成約価格の乖離率(2023年6月~8月集計) 乖離率 人数(人) 20%以上 9 0%超、20%未満 16 0% 133 0%未満、-20%以上 189 -20%未満、-40%以上 44 -40%未満、-60%以上 19 -60%未満、-80%以上 4 -80%未満 9 合計 423 6月~8月のデータによると、乖離率0%または乖離率-20%の範囲で売却している方は76%いました。また、売り出し価格より高く成約された方は全体の5.9%でした。
引用:リビンマッチ「売り出し価格と成約価格の乖離率(2023年6月~8月分)」
成約物件の乖離率からわかること
乖離率は、個別物件ごとの売り出し価格と成約価格を比較する指標です。成約した物件の最初の売り出し価格を調査するのは骨の折れる作業ですから、即時性のある乖離率のデータは公表されていません。
ここでは、東京カンテイが半期ごとに公表している首都圏の中古マンションにおける乖離率のレポート(最新版は2022年のデータ。2023年7月31日公表)と、近畿レインズが2021年に公表した調査のデータからわかることを解説します。いずれも、分析に利用しているのは、個別物件の売り出し価格と成約価格から計算された乖離率です。
中古マンションの成約物件の大半は、売り出しから3カ月以内に低乖離率で成約
東京カンテイのレポートからわかることは、成約した中古マンションの大半は、売り出し価格から大きく変わらない価格で3カ月以内に売れているということです。つまり、売り出し価格を短期で成約できる価格に設定しなければ、「長期間売れない」「売れてもかなりの値引きが伴う」ことになります。
期間 | 売り出しから成約まで | |||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
カ月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
乖離率(%) | -2.6 | -4.6 | -5.7 | -7.0 | -8.0 | -8.1 | -9.2 | -10.5 | -9.4 | -9.2 | -11.2 | -9.0 |
シェア(%) | 40.7 | 14.8 | 11.0 | 8.0 | 6.1 | 4.5 | 3.4 | 2.5 | 1.9 | 1.5 | 1.2 | 4.4 |
上記の表は、東京カンテイのレポートから抜粋したものです。成約した中古マンションの40%は、売り出してから1カ月たたずして成約していることがわかります。3カ月までの成約は66.5%と約3分の2を占め、中古マンションの売却はまさに短期決戦です。
また、1カ月以内に成約した場合の乖離率は-2.6%、2カ月目、3カ月目の成約でもそれぞれ-4.6%、-5.7%といずれも小さい乖離率となっており、さほど値下げせずに成約にいたっていることがわかります。
つまり、中古マンションの売却には、成約できる可能性が高い売り出し価格を、最初から設定することが大切です。
中古戸建の成約物件も低乖離率が約3分の2
中古戸建の乖離率については、やや古くなりますが、近畿不動産流通機構(通称:近畿レインズ)が2021年2月に公表した市況レポートにNo.80『中古成約物件の販売履歴』という乖離率についての分析があります(※近畿レインズのレポートでは、乖離率を価格開差率と呼んでいます)。
画像引用:近畿圏不動産流通機構 市況レポート「図表7 価格開差率別の件数分布(近畿圏・2020 年)」
中古戸建の成約物件の36%が乖離率ゼロ、すなわち値引きなしの売り出し価格で成約しています。さらに、5%未満の値引きで成約した物件のシェアは65.3%と約3分の2のシェアです。
中古戸建については、中古マンション以上に、成約の可能性の高い売り出し価格を設定することが重要といえるでしょう。
希望価格で売る最短ルートは、適切な売り出し価格の設定
成約物件の乖離率の分析から、スムーズな中古物件の売却には、すぐに成約してもらえそうな売り出し価格を設定することが重要とわかりました。
値引きするにしても、最大約5%の値引きで、確実に3カ月以内に成約できる価格設定にするべきでしょう。そうでないと、不人気物件と思われたり、足元を見られたりして、成約までの期間が長期化してしまう危険性が高くなります。
できるだけ最短でかつ高値で売るための、売り出し価格の設定手順を紹介します。
ステップ1:複数社へ査定依頼し、査定価格を確認
まずは、複数の不動産会社に対象物件を査定依頼し、査定価格を出してもらいましょう。査定価格は、直近の実勢価格などの情報をもとに、約3カ月で売却可能と不動産会社が判断する価格です。
同じ地域での売買事例に基づく実勢価格が参考になりますが、不動産は個別性が強く、単純に実勢価格から導けるものではありません。同じマンションで最近の成約事例があっても、売買当事者の固有の事情が成約価格に反映されている可能性もあります。
査定価格の算定は、3~6社の不動産会社に依頼しましょう。それぞれの会社独自の見立てや、情報が反映された査定価格を確認できます。
ステップ2:担当者へ「なぜその値なのか」理由を聞く
複数の不動産会社から査定価格を提示してもらったら、担当者にその価格になった根拠を聞きましょう。
基本的には、どの不動産会社も同じ地域での売買事例を参考に査定価格を出します。しかし、不動産会社の持つ独自の情報により査定価格に差が生じることもあります。
適正な売り出し価格を決めるためにも、査定根拠を確認して必要な情報をすべて取得するようにしましょう。
ステップ3:競合物件をチェックする
同じ地域に床面積、築年数などの条件が似たような売り物件があれば、買主は必ず比較します。
不動産ポータルサイトに類似物件があるか、あるとしたらその件数を確認してください。また、不動産会社のみが閲覧可能な「レインズ」には、一般に公開されていない物件が登録されていることがよくあります。不動産会社に依頼して、非公開の競合物件があるか調べてもらいましょう。
競合物件がない場合、買主の条件があなたの物件と合えば、高く売れる可能性が高くなります。逆に、競合物件が多ければ、高い値段で成約することは難しくなるでしょう。
ステップ4:平均値より少しうえの価格で売り出す
ここまで情報をそろえたら、売り出し価格を決めましょう。
中古マンションなら、3カ月以内に少なくとも5%以内の値引きで成約できる、査定価格の平均値よりすこしうえの売り出し価格がおすすめです。
複数の不動産会社から提示を受けた査定価格の平均をベース価格とし、以下のポイントを考慮してベース価格からどの程度うえの価格にするか決めましょう。
- 希望の売却期間
- 各不動産会社の査定根拠
- 競合物件の情報
とはいえ、売却価格よりも売却スピードを重視したい方は、無理をせず査定価格の平均価格をそのまま売り出し価格としたほうがよいかもしれません。競合物件がなければ、とりあえず1カ月はやや強気の売り出し価格にする戦略もありえます。
最終的な売り出し価格の調整は、個別事情や条件の影響が大きいので、不動産会社とじっくり相談して決めましょう。
中古戸建は個別性が非常に強く、価格設定が難しくなります。基本は、中古マンションと同様に売り出し価格を決めればよいですが、条件の合う買主が現れる可能性は中古マンションと比べると低くなります。
千載一遇の売却チャンスを逃さないためにも、売り出し価格は中古マンションよりも保守的に設定し、値下げについても柔軟に対応しましょう。
値下げを最小限にする売り出し価格の設定が重要
中古不動産の売却をスムーズに進めるには、値下げを最小限にする売り出し価格の設定が重要です。以下の流れに沿って、十分な情報収集をしたうえで売り出し価格を決めましょう。
- 3〜6社の不動産会社に査定依頼する
- 各不動産会社から、査定根拠を聞く
- 競合物件をチェックする
- 希望売却期間、査定根拠、競合物件を考慮して、査定価格の平均を調整し、売り出し価格を決定。ただし、5%以内の値引きで確実に成約できる価格に設定し、長期の売れ残り物件になることは避ける。
住宅の売却は人生の一大イベントです。しっかりと準備して取り組むと同時に、あまり欲張りすぎず冷静に進めましょう。
この記事の編集者
リビンマッチ編集部
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