相続で揉める家族の特徴とその事例とは?争いを未然に防ぐ方法4選
家族や自分のために大切に築いてきた財産。その財産が原因で家族仲が壊れてしまうのは、誰も望まないでしょう。しかし、金銭が絡んでくることで家族の本音や欲望が明らかになるケースは、決して珍しくありません。
相続争いはドラマやお金持ちの世界に限った話ではなく、誰にでも起こりうる身近な問題です。実際にどんな家族が相続で揉めてしまいやすいのかその特徴と事例7選、争いを未然に防ぐ方法4選を紹介します。
大切な家族の絆を守るために、相続争いが起こらないよういまから対策しておきましょう。
相続の心配事ランキング1位は「家族・親族と揉めないか」
株式会社AlbaLinkが2022年12月から2023年1月にかけて行ったアンケート調査「相続に関する不安ランキング」によると、相続に対してもっとも多くの人が不安を感じているのは「家族・親族と揉めないか」でした。
上位3位のデータは以下のとおりです。
順位 | 相続に関する不安 | 人数(人) |
---|---|---|
1位 | 家族・親族と揉めないか | 170 |
2位 | 税金・費用の額 | 87 |
3位 | 手続きの難しさ | 67 |
※調査対象:家族・親族の相続について考えたことがある男女500人
相続人同士の関係の悪さや現在疎遠であることなどから、家族や親族間でのトラブルを懸念している人はたくさんいます。
昔は仲の良かった兄弟でも、大人になるにつれて関係性が変わってしまったり、配偶者が横から口出ししてきたりなどでトラブルに発展してしまう危険性があります。
令和3年度の相続に関する事件数は約1万3,000件
最高裁判所の司法統計によると、令和3年の遺産分割事件の全国総数は1万3,447件でした。(参考:最高裁判所「令和3年 司法統計年報(家事編)」
10年前である平成23年には1万793件、5年前である平成28年には1万2,179件だったことから、相続関連で揉めるケースが増えていることがわかります。(参考:最高裁判所「家事平成23年度 43 遺産分割事件数 終局区分別審理期間及び実施期日回数別 全家庭裁判所」、家事平成28年度「44 遺産分割事件数 終局区分別 家庭裁判所別」)
相続で揉める家族の特徴とその事例7選
一見なんの問題もない家庭でも、相続が発生することで揉める危険性があります。ここでは、相続で揉める家族の特徴とその事例を紹介します。
遺産が実家くらいしかない
遺産の大部分が実家の土地と建物である場合は、相続人同士で揉める原因になりやすいです。不動産は現金と異なり分割がしにくいため、相続人が複数名いれば「誰が実家を継ぐのか」という問題も発生するためです。
事例
具体的な事例は以下のとおりです。
- 「誰が実家を継ぐか」について兄弟姉妹同士で対立する
- 実家を継いだ相続人とは別の相続人が実家に住んでおり、相続を機に住む場所を失う
- 実家を売却したい相続人と実家を残したい相続人とで意見が食い違う
たとえば遠方に住んでいる長男が、これまで実家に住んで親を介護してきた相続人ではなく長男である自分が実家を継ぐべきだと主張したとします。この場合、これまで親の介護をしてきた相続人としては納得しがたく、長男が実家を継ぐことで、住む場所を失ってしまうかもしれません。
また、実家をどうするかについて意見が分かれてしまう場合があります。話し合いがまとまらず、長期化する危険性もあります。
多くの不動産を残して亡くなった
生前に多くの不動産を所有したまま亡くなったケースも、揉めやすい傾向にあります。不動産は金融財産よりも分けにくいためです。
物件数が少なくてもそれはそれで揉めますが、多ければ誰がどの不動産を取得するのかを協議するだけでも時間や労力がかかります。
また、山奥の土地や管理に困るような農地ばかりたくさん持っている場合は、場所や存在すら相続人が把握していないこともあり、そのような土地は敬遠される傾向にあります。
事例
具体的な事例は以下のとおりです。
- 誰がどの不動産を相続するかで揉める
- 不動産の評価方法で揉める
- 分割方法で揉める
誰がどの不動産を相続するかで揉めるケースはよくあります。相続するなら利用価値の高い不動産がよく、持っていても税金ばかりがかかる不動産はいらないと考える人が多いためです。
そのほか、評価方法や分割方法でも揉める危険性があります。
評価方法には相続税路線価、固定資産税評価額、公示地価といった種類があり、選択する評価方法によっては評価額が変わってくるため、評価額を下げたい人と上げたい人とで意見が食い違うかもしれません。
具体的には、遺産のほとんどが不動産である場合によく利用される「代償分割」では、不動産を取得した相続人がほかの相続人に対して代償金を支払います。たとえば、父が亡くなり父が所有していた家を長男が引き継ぐ場合、長男は妹や弟に対して代償金を支払います。この代償金の金額は、家の評価額によって決まります。
長男は、代償金を少なくするために、家の評価額をできるだけ低くしたいと考えます。一方、妹や弟は、もらえる代償金を増やすために、家の評価額をできるだけ高くしたいと考えます。
分割方法についても代償分割のほか、現物分割や換価分割、代償分割など複数の種類があるため、相続人全員の意見が一致しないおそれがあります。
長男など特定の相続人のみに多額の生前贈与をしていた
長男など特定の相続人のみに多額の生前贈与をしていた場合も、揉める原因になる場合があります。亡くなった人から受けた生前贈与は「特別受益」に該当するため、特別受益分の財産を相続財産として家族間で再分配する「特別受益の持ち戻し」を行うべきか、協議する必要があるためです。
特別受益の持ち戻しをすると、生前贈与を受けた相続人の取得分を相続財産から差し引くことになるため、その分持ち戻しをした本人のもらえる財産が減ります。反対に、持ち戻しをしなければ、生前贈与分の財産は相続財産に含まれないため、その分相続財産を多く受け取ります。
持ち戻しをするかどうかや、持ち戻しをする場合にいくら取得分から差し引くかについては遺言書がなければ相続人同士で決定します。しかし、贈与を受けた人とほかの相続人とで意見が合わず、揉めごとに発展するおそれがあります。
事例
具体的な事例は以下のとおりです。
- 生前贈与を受けた相続人が贈与だと認めない
- 生前贈与を受けた相続人が特別受益の持ち戻しが免除されていると主張する
生前贈与を受けた相続人の「贈与ではなくあくまでも売買で、特別受益の持ち戻しが免除されている」という主張と、ほかの相続人の「不公平」「持ち戻しをするべき」といった主張が食い違い、トラブルになるケースは珍しくありません。
相続人の中に認知症の人や失踪している人がいた
遺産の分け方は遺言に沿って決めるのが原則ですが、以下のような状況下では遺産分割協議、つまり相続人全員の話し合いで遺産の分け方を決める必要があります。
- 遺言書を書いていない
- 相続人全員が遺言内容に反対した
- 遺言書の内容にはなかった財産があった
しかし、相続人の中に認知症や居場所がわからない人がいる場合、このままでは遺産分割協議ができません。遺産分割協議は、必ず相続人全員で行う必要があるためです。
認知症の相続人がいる場合、成年後見制度の審判を経て成年後見人を選任すれば遺産分割協議を行えます。また、居場所がわからない相続人がいる場合は、失踪宣告や不在者財産管理人の選任を申立てし、申立てが認められれば遺産分割協議が可能です。
とはいえ、成年後見人の選任、失踪宣告、不在者財産管理人の選任の申立ては家庭裁判所に対して行う必要があり、審判や手続きなどが複雑です。
そのため、相続人の中に認知症や居場所のわからない人がいる場合は、遺言書を作成しておくとよいでしょう。そうすれば、成年後見人の選任、失踪宣告、不在者財産管理人の選任の申立てを行わずとも相続手続きが可能です。
事例
具体的な事例は以下のとおりです。
相続人に認知症の人や行方不明者がいるにもかかわらず、遺産分割協議を進める
たった1人でも認知症の人や行方不明者がいると、そのほかの相続人に問題がなくても遺産分割協議ができません。かといって、家族が代わって遺産分割協議を進めたり、遺産分割協議書に署名・押印をしたりしてはいけません。
たとえ家族でも、正式な代理人として認められていないためです。正式な代理人と認められていない人が勝手に遺産分割協議書に署名・押印をした場合、私文書偽造罪にあたる危険性があります。
婚外子や養子の存在を家族に隠していた
婚姻関係を結んでいない男女のあいだに生まれた子を、婚外子といいます。
たとえば、自分が父親であり前妻とあいだに子をもうけ亡くなったとします。その子を認知していなければ、その婚外子は相続人ではありません。しかし、認知していた場合は相続人に該当します。また、自分が母親で前夫とのあいだに子をもうけて亡くなった場合、例外なくその婚外子は相続人です。
前の配偶者とのあいだに生まれた子どもや、認知した子どもがいるのを家族に隠していた場合、相続人調査で発覚します。
遺産分割協議では相続人全員の参加が必要になりますが、連絡がつかず話し合いすらできないケースや、連絡がつかないケースも多いでしょう。
相続人が全員そろわなければ、遺産分割協議ができないため、揉める原因になります。長年子どもの存在を隠していた場合、打ち明けるには勇気がいるでしょう。しかし、家族のためを思うなら、早めに打ち明けておくのがおすすめです。
事例
具体的な事例は以下のとおりです。
- 前配偶者との子どもや認知した子どもがいるが一切連絡をとっておらず、いまの家族にも話していない
- 遺産の分割方法について意見が対立する
前配偶者とのあいだに子どもや認知した子どもがいる場合でも、もう何年も連絡をとっておらず、いまの家族はその存在を知らないというパターンはそう珍しくありません。
遺産を残す側としては、いまの家族だけに遺産を残したいという思いもあるかもしれません。しかし、前配偶者との子どもや認知した子どもも法廷相続人である以上相続する権利があり、さらに最低限の遺産の取得を保障する「
また、不倫が原因で離婚した場合や離婚後に養育費の未払いをしていた場合、その家族に対してよくない感情を抱いているおそれがあります。相手側がいまの家族に強い恨みを抱いている場合、相続トラブルになる危険性が高まります。
いまの家族と前の家族との相続トラブルを避けるには、遺言書を作成しておくことをおすすめします。中でも、より遺言者の思いを実現しやすい「公正証書遺言」を作成しておくとよいでしょう。
ただしその場合でも、各相続人への遺留分を侵害しない内容にする必要があります。
特定の相続人だけが被相続人を介護していた
被相続人とは、財産を残して亡くなった人のことです。
特定の相続人だけが被相続人を介護していた場合も、揉めごとに発展しやすいケースです。なぜなら、被相続人を献身的に介護していた相続人に対して、法定相続分よりも多くの遺産を相続できる制度「寄与分」があるためです。
寄与分を認めるかどうかや、認める場合は金額をいくらにするかなどについては相続人同士で協議する必要があるため、揉める原因になってしまいやすいのです。
事例
寄与分が原因で揉める場合に多いのは、兄弟姉妹のうち1人が被相続人を介護していたケースです。具体的な事例は以下のとおりです。
相続人のうち、長女だけが長年被相続人の介護をしてきたため寄与分を請求したが、ほかの相続人は「同居していたのだから当然」と寄与分を認めず、遺産分割協議が進まなくなった
介護してもらっていた被相続人にしてみれば、長年献身的に介護してもらった分ほかの相続人よりも長女に多くの遺産を渡したいと考えるかもしれません。しかし、相続人同士の協議の中で寄与分が認められない場合、その判断は家庭裁判所に委ねられます。
寄与分が認められない場合に有効なのは、遺言書を作成しておくことです。介護をしてくれた長女に多くの遺産を渡しつつも、別の相続人の遺留分、つまり別の相続人が最低限もらえるはずの遺産にも考慮した内容なら、長女以外の相続人も文句は言えないでしょう。
相続人同士の関係が悪い・または疎遠になっている
相続人同士の関係が悪い場合や疎遠になっている場合は、遺産分割協議がうまくまとまらず、揉めてしまう危険性があります。普段から折り合いが悪ければ、お互いに主張を譲り合い、遺産を仲良く分けようという気持ちにはなかなかなりにくいためです。
たとえ普段から良好な関係を築けていても、意見の相違から険悪な関係に変わってしまうのが相続のおそろしいところです。
中には「この人にだけは渡したくない」「絶対に押印しない」とまで思うほど、こじれてしまうケースもあります。
また、疎遠になっている場合はそもそも連絡がつかない危険性が考えられます。
事例
具体的な事例は以下のとおりです。
- 現時点で相続人同士の仲が悪い
- 遺産分割協議の際に感情的になってしまい、冷静な話し合いができない
- 連絡がつかない相続人がいるため、相続が発生しても遺産分割協議ができそうにない
このような状態では、相続が発生しても遺産分割協議どころではありません。遺産分割協議は相続人全員で行い、相続人全員が納得しなければ成立しませんが、上記のような状態では話がまとまらず、不調に終わるおそれがあります。
また、疎遠になっていて連絡がつかない場合は遺産分割協議自体ができません。
このように、遺産分割協議がスムーズにいかない危険性がある場合は、遺言書でそれぞれに相続する遺産を指定しておくとよいでしょう。そうすれば、遺産分割協議の必要はありません。
争いを未然に防ぐ方法4選
相続争いが発生すると、解決するまで相続手続きが止まってしまいます。ケースによっては長期化したり、解決したあとも関係が修復できず引きずってしまったりするおそれがあります。
そのため、相続争いは未然に防ぐことが重要です。ここでは争いを未然に防ぐ方法を4つ紹介します。
元気なうちに相続人全員を集めて話し合う
相続争いを防ぐうえでもっとも大切なことは話し合いです。元気なうちに、相続人全員が集まって話し合う機会を設けましょう。前もって話し合っておけば相続人も遺産の内容を把握でき、実際に相続が発生したときにもスムーズに手続きが進みます。
また、亡くなった人の考えを知らなければ主張が食い違うことも、事前に考えを伝えておくことで、それぞれの受け止め方も違ってくる可能性があります。
遺言書を作成しておく
相続で揉めないために、遺言書を作成しておくのもよいでしょう。遺言書の種類は、自筆証書遺言よりも「公正証書遺言」での作成をおすすめします。
自筆証書遺言は被相続人が自ら記載する必要があり、ミスや抜けがあれば無効になるリスクがありますが、公正証書遺言は公証役場で作成してもらうため無効になる可能性が極めて低いためです。
また、遺言書の原本が公証役場に保管されるため、偽造や変造、隠匿のおそれもありません。
公正証書遺言を作成するには、管轄の公証役場に直接連絡をとって依頼するほか、弁護士や司法書士などの士業を介しての依頼も可能です。
家族信託を活用する
家族信託を活用するのもひとつです。家族信託とは、財産管理や運用を特定の家族に任せる契約のことです。
家族信託を活用すれば、信託契約に基づいて指定された家族は預金口座からの引き出しや不動産売買などが行えるため、被相続人が亡くなった場合だけでなく、認知症になった際の対策としても有効です。
また、被相続人が亡くなったあとの財産の帰属先も決めておけるため、遺言のような役目もあります。
家族信託は自分でもできますが、法律や税務などの知識が必要です。まず弁護士や司法書士などの士業に相談することをおすすめします。
価値をもとに、不動産をどうするか決めておく
不動産の価値は市場や需要によって変動するものであり、個人の感情や思い入れとは別のものです。そのため、価値を客観的に把握することで、不動産を売却するかどうか、また誰にどのように分けるかの判断をより合理的にできます。
価値が高い場合は売却して現金化し、自分が亡くなったあと相続人同士で均等に分けてもらう、低い場合は買取や解体、贈与などの方法で処分するといった方法が考えられるでしょう。
さらに、価値を把握しておくと相続税や贈与税などの税金の負担も正確に把握できます。税金の負担が重い場合は事前に節税対策ができますし、軽い場合は相続人間で調整できます。
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相続争いを未然に防ぎたい方は、ぜひお気軽にご利用ください。
この記事の編集者
リビンマッチ編集部
リビンマッチコラムでは、むずかしい不動産の事をできる限りわかりやすく、噛み砕いて解説しています。不動産に対するハードルの高いイメージ、とっつきにくい苦手意識を少しでも取り除いて、よりよい不動産取引のお手伝いをさせていただきます。
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