親の介護をしていれば相続割合は増える?より多くの財産を相続するための対策と不動産売却によるトラブル回避方法などについて解説
親や祖父母の介護をしていればその分介護にかかる負担も大きいです。そのため、相続時により多くの遺産をもらえるのか気になっている方も多いでしょう。しかし実際には介護をした方(介護者)と他の相続人とで、トラブルに発展するケースもあります。
本記事では、介護者の相続割合やより多くの財産を相続するための対策、不動産売却によるトラブル回避方法、などについて解説していきます。
もくじ
親の介護と相続割合
結論を先に述べると、親や祖父母など被相続人を介護していたとしても相続割合は基本的に無関係です。法定相続分で分ける際には、介護者が「他の相続人よりも遺産が多くもらえる」「実家を相続できる」といった権利はありません。
介護者の相続割合が増える可能性があるのは、遺言書でその旨を書いてもらうか、遺産分割協議で相続人全員に割り増しを認めてもらった場合です。しかし遺産分割協議では自分の相続額が減ることに反対する人もいるかもしれません。協議が決裂すれば家庭裁判所が調停に入り、それでも合意に至らなければ家庭裁判所の審判を受けることになります。
介護者が自らの権利を主張する根拠となるのは、他の相続人との不公平を緩和する寄与分という制度です。寄与分の制度と特別寄与の制度については、次の項目で解説します。
寄与分の制度とは
寄与分の制度とは、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人が、法定相続分以上の財産を取得できる制度です。特別な貢献には、「被相続人の手術費や介護用品の費用を支払っていた」「被相続人が営む農業を無償で手伝っていた」などが該当します。寄与分の制度は他の相続人との不公平を緩和するために設けられた法律であるため、貢献の内容は介護に限りません。
寄与分の制度が適用されるかどうかは、遺産分割協議で他の相続人に認めてもらえるかどうかにかかっています。認めてもらえなければ、法定相続分以上の遺産は受け取れません。
納得できない場合は、家庭裁判所に対して遺産分割調停を申し立てましょう。遺産分割調停とは、家事審判官(裁判官)と調停委員が中立、公正な立場で両者の言い分を聞き、解決を促す手続きです。遺産分割調停でも合意に至らないと、遺産分割審判となり、家庭裁判所が判断を下します。
家庭裁判所に寄与分を認めてもらうポイントは、被相続人の財産の維持や増加に具体的な貢献があったかどうかです。そのため「被相続人の心の支えになった」「介護の際に精神的な苦痛を受けた」などの内容は、考慮されない可能性があります。
特別寄与の制度とは
寄与分を受けられるのが相続人だけなのは不公平という考えのもと、2019年に特別寄与の制度が設定されました。特別寄与の制度は、相続人ではない親族を対象にした寄与分の制度です。6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族が特別寄与を受けられる可能性があります。
被相続人の長男の妻が被相続人の介護をしていた場合、相続時に長男が亡くなっていれば妻は相続人になれません。しかし、特別寄与の制度を使えば、長男の嫁は相続人である親族から寄与分を請求できます。
特別寄与が認められるかどうかは、相続人との話し合い次第です。合意に至らなかった場合は、家庭裁判所に対して寄与料を求める申請をします。
介護をした相続人が多くの財産を相続するための対策
被相続人の介護者が確実に多くの財産をもらいたい場合には、生前に被相続人と約束を取り交わしておくようにしましょう。ここからは生前に遺言書を書いてもらう方法と、負担付死因贈与契約を結ぶ方法について解説します。
生前に遺言書を書いてもらう
相続において、最優先されるのは遺言書です。仮に遺言書に「介護者である相続人が財産の半分を相続する」という記載があれば、基本的にそのまま実行されます。
ただし、相続人には最低限度の取得割合である遺留分があり、遺言書の内容によらず遺留分まではもらえません。遺留分は、遺留分の権利者が父母・祖父母など直系尊属のみ場合、被相続人の財産の3分の1で、これを相続人の間で分配します。配偶者や子など直系尊属以外の人がいる場合は、被相続人の財産の2分の1を分配します。(※)
また遺言書は3種類あり、特徴や違いは以下のとおりです。なお、表にある公証人とは、日本全国に設置される公証役場に配置された裁判官、検察官、法務局長など法務実務の経験者です。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
---|---|---|---|
作成の仕方 |
|
|
|
必要な証人 | 不要 | 2人以上 | 2人以上 |
家庭裁判所の検認 | 必要 | 不要 | 必要 |
3種類の中で相続トラブルを避けやすいのは、公正証書遺言です。公正証書遺言は将来の相続人に証人になってもらうケースが多く、事前承認の形になりやすい上に、公証人が確認するため書類不備による無効もほぼありません。また家庭裁判所の検認も不要です。
※出典:法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」
負担付死因贈与契約を結んでおく
負担付死因贈与契約とは、贈与人(被相続人)が贈与される人に何らかの負担や義務を求め、その対価として贈与を行う契約を結ぶことです。たとえば、「贈与人が亡くなるまで家で介護してくれたら、家と土地を贈与する」などと契約します。
負担付死因贈与契約は、双方の合意があってはじめて成立するものです。この点、被相続人の一存で決まる遺言書とは異なります。また、負担付死因贈与契約の負担を全部、またはそれに類する程度果たすと撤回できません。たとえ負担付死因贈与契約と相反する遺言書があっても、負担付死因贈与契約が有効となります。
したがって、「約束どおりに介護したのに家がもらえなかった」というようなケースは起こりません。被相続人の気が変わるのが心配な場合や、意識のはっきりしているうちに明確に取り決めておきたい場合は、負担付死因贈与契約を結んでおくとよいでしょう。
介護や相続のトラブルを避けるために不動産を売却するメリット
不動産を売却して現金化すると、介護や相続に関するトラブルを避けられる場合があります。ここからは具体例を交えながら、不動産売却によって得られる3つのメリットを見ていきましょう。
不動産の売却資金を高齢者施設の費用に充てられる
親を高齢者施設に入れたくても入居一時金や月額利用料の支払いができない場合があります。このような場合に、不動産を売却して現金化すれば費用に充てられます。
介護される親の立場で考えれば、「子どもに経済的な負担をかけたくない」という希望を満たせるのがメリットです。また高齢者施設にいる間に実家の維持管理ができず、空き家になってしまうリスクも避けられます。
人が住んでおらず、老朽化が激しく倒壊のおそれがある家は特定空き家となり、固定資産税が一気に高くなってしまいます。特定空き家になる可能性が高い場合は、不動産売却を検討したほうがよいでしょう。
生前贈与が受けられる
相続後に相続人同士で遺産を分ける場合、介護者が他の相続人よりも多く遺産をもらうことは難しいです。たとえば介護の苦労を想像できない人が、自分の相続額が減るのに我慢できないというケースも大いにあるでしょう。遺産分割協議で合意に至らず家庭裁判所の調停、審判に発展したり、人間関係が悪化したりする場合もあります。
対して被相続人が存命のうちに不動産を売却すれば、生前贈与を受けられるメリットがあります。生前贈与は被相続人の意志で決まるため、他の相続人の承認は不要です。また被相続人が希望している事実によって、介護者が他の相続人から非難される可能性も少なくなるでしょう。
相続税対策になる
相続前に不動産を売却して、マイホームを売ったときの特例を利用すると、相続税の節税につながる場合があるという点もメリットのひとつです。具体的にはマイホームを売ったときの特例を利用すれば、マイホーム(居住用財産)を売却した際に、所有期間にかかわらず譲渡所得から最大3,000万円まで控除でき、節税対策になります。(※1)
なお、家に住まなくなった日から3年を経過する場合は、特例が利用できなくなる場合もあるので注意してください。たとえば、高齢者施設に移住して3年が経過した場合、特例が適用されません。そのため、早めに不動産売却を検討したほうがよいでしょう。
一方で現金ではなく不動産で相続したほうが、小規模宅地等の特例によって節税できるケースもあります。小規模宅地等の特例とは、被相続人の住居の相続税評価額を最大で80%減額できる制度です。(※2)
現金と不動産のどちらにするかは、被相続人の希望や不動産相場などを総合的に検討するとよいでしょう。
※1 出典:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
※2 出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
贈与税がかからないようにする方法
現金を生前贈与する際は贈与税がかかります。手取りを多くするためにも、なるべく贈与税がかからない方法を選びたいものです。ここからは2つの節税方法について詳しくご紹介します。
基礎控除の金額内で暦年贈与をする
暦年贈与とは、贈与した金額の合計から基礎控除額の110万円を差し引ける制度です。つまり、1年間の贈与額が110万円以内であれば税金がかかりません。暦年贈与を利用して、毎年分割して贈与することを連年贈与といいます。
たとえば、1,000万円を一括贈与すれば、贈与額の税率は30%、控除額は90万円であり、税額は以下のとおりです。
贈与税=(1,000万円-110万円)×0.3-90万円=177万円
しかし、毎年110万円ずつ贈与すれば贈与税はかかりません。
注意しておきたいのは、連年贈与となるのは「たまたま毎年贈与した」ケースです。合計いくら贈与すると決めて計画的に贈与するのは定期贈与となります。定期贈与では贈与額の合計に贈与税がかかるため、一括贈与と変わりません。
また被相続人の死亡日から3年前までの贈与は、生前贈与加算の制度によって、暦年贈与が適用されない点にも注意しましょう。
※出典:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
日常に必要な費用として贈与する
日常に必要な費用として贈与すれば、この分を非課税で生前贈与できるケースがあります。具体的には、子どもを扶養する義務のある親が生活費や教育費として贈与する場合です。また贈与者の介護費用や治療費などを介護者に贈与するのも非課税です。
「教育費や介護費の名目にすれば、税金がかからないのではないか」と思った方もいるかもしれません。しかし日常に必要な費用として認められるには、「必要な額を都度、直接使う」のが原則です。たとえば、介護費としてもらったお金を預金したり不動産の購入資金に充てたりすれば、贈与税がかかります。
相続のトラブルを避けるにはどこに相談すればよいのか
相続トラブルを避けるには、弁護士または司法書士に依頼するようにしましょう。それぞれ得意分野が違うため、トラブルの内容や将来のリスクに応じて依頼先を変えてください。
弁護士
弁護士が対応可能な内容は主に以下の4つです。
- 遺言書作成・検視
- 遺産分割協議書作成
- 相続放棄の手続き
- 相続関連の争いの解決
このうち弁護士にしか対応できないのが、相続争いの解決です。たとえば、「遺言書の内容に納得できないので無効にしたい」という場合、相談に乗ってもらえます。また「長年介護をしてきたのに、寄与分を認めてもらえない」などの理由で家庭裁判所に調停を申し入れたいときに、弁護士に手続きしてもらえます。
このように弁護士が必要になるのは、深刻な不動産相続のトラブルになっている場合や、今後トラブルになる可能性がある場合が一般的です。その他の事務的な手続きは司法書士でも対応できます。また弁護士は相続登記や金融機関への相続手続きなどをできません。
司法書士
司法書士は、以下のように事務関係の対応範囲が広い傾向にあります。
- 遺言書作成・検視
- 遺産分割協議書作成
- 相続放棄の手続き
- 不動産の相続手続き(相続登記)
- 金融資産の相続手続き
不動産の名義変更(不動産登記)は、司法書士の独占業務です。相続登記や不動産売却、贈与の手続きに慣れている司法書士が多く、スムーズに手続きを完了できるでしょう。中古物件の売却に強い不動産会社や、相続税の節税に強い税理士などのネットワークを持っている司法書士もいます。
まとめ
不動産の相続において、介護者が法定相続分以上の財産をもらおうとすれば、家庭裁判所の調停、審判になるなど相続トラブルに発展する可能性もあります。そのため、不動産を売却して現金で生前贈与してもらうなど、他の対策を検討するとよいでしょう。
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この記事の編集者
リビンマッチ編集部
リビンマッチコラムでは、むずかしい不動産の事をできる限りわかりやすく、噛み砕いて解説しています。不動産に対するハードルの高いイメージ、とっつきにくい苦手意識を少しでも取り除いて、よりよい不動産取引のお手伝いをさせていただきます。
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