分譲マンションの建て替え。費用負担や流れ、区分所有者ができる選択は?
国土交通省の「分譲マンションストック戸数」によると、2022年末の分譲マンション戸数は約694.3万戸あります。そのなかで、耐震性能が問題視されている旧耐震基準の分譲マンションは約103万戸あるとされています。
旧耐震基準の分譲マンションは、新しいものでも築41年が経過しています。新耐震基準の分譲マンションでも古いものは築40年を迎えており、近い将来に建て替える必要のある分譲マンションが年々増加しています。
そのようななかで分譲マンションを所有する人が、将来必ず来る建て替えに関して正しい知識を持っておくのは、自身の資産を守るために必要最低限なことといえます。
もくじ
分譲マンションの建て替えに関する基礎知識
ここでは、分譲マンションの建て替えが必要な時期やその手続きなど、基礎的な知識を紹介します。
分譲マンションの建て替えが必要な時期は?
分譲マンションは、鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造のため、築10~100年の間に建て替えが必要になります。
鉄筋コンクリートはコンクリートの中に鉄筋が埋め込まれており、互いの強度を補っています。そのため鉄筋を覆うコンクリートの厚さなどから、寿命は長くて約100年といわれてきました。
また、人の住まいとなる分譲マンションには、生活に必要なさまざまな設備があります。その設備、特に配管類にも健全に使用できる期間に限界があり、交換には大がかりな工事が必要になることもあります。
構造的な特性や設備の更新を考えると、築100年以内には建て替えが必要になることは理解できるでしょう。
しかし、建て替え時期が到来している分譲マンションのうち、実際に建て替えられたものの割合はまだまだ少ないといわれます。また、実際に建て替えられた分譲マンションの築年数は平均で約60年といわれているため、目安にしておきましょう。
建て替えまでの流れ
建て替えは、どういった流れで進められていくのでしょうか。下図は、建て替え工事に着手するまでの大まかなロードマップです。
建て替えは、管理組合の決議によって行われることが、区分所有法で定められています。区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成で決議できます。
集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。
決議の前に管理組合内である程度の合意形成ができなければ、話し合いは進みません。
決議が成立すると、建て替えに賛成しなかった区分所有者に対して、建て替えの参加についてその意志を確認するための催告を行います。
建替え決議があつたときは、集会を招集した者は、遅滞なく、建替え決議に賛成しなかつた区分所有者(その承継人を含む。)に対し、建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を書面で催告しなければならない。
建て替えに賛成しなかった区分所有者は、催告に対して参加するか否かを明確にします。参加しない場合は、「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」に基づき、建替組合が参加しない区分所有者の所有権を買い取ることが可能になります。
こうして建て替えの参加者が確定され、建替組合を設立します。そのあと、建替組合が事業者と協力しながら工事の計画を立てて、実行します。
なお、漠然としたプランより、ある程度現実的な計画に沿って事前の検討を行うほうが望ましいでしょう。そのため、できれば初期の検討時点から、実際に建て替え工事に関わるデベロッパーなどの事業者を決定して進めていくとスムーズに進みます。
建て替えの主役は誰?
建て替えは管理組合が主導して進めますが、総会で建て替えが決議されると、建替組合を設立します。
建替組合が工事の計画をすることになり、建て替えの主役は「管理組合」から「建替組合」に役割が移ります。
しかし、管理組合の理事や役員が大きく変わることはあまりありません。管理組合で主導的な役割を担った主要な人たちが、建替組合をリードしていくと考えられます。
そして、建替組合と二人三脚で計画を進めていくのが事業者です。事業者は建設工事に関わるだけではなく、専門家の立場から計画の決定プロセスで大きな役割を担います。
分譲マンションの建て替え事業計画
分譲マンションの建て替え事業計画では、以下のような計画をまとめあげます。
- 全体の費用に充当する資金計画
- 分譲する部分がある場合の販売に関する計画
- 各区分所有者が持つ権利に基づいた新しいマンションの権利配分に関する計画
事業計画の策定には、事業者であるデベロッパーが大きく関与します。しかし、デベロッパーに任せきりにするのではなく、建替組合員である区分所有者が主体的に関わる必要があります。
管理組合と同様、建替組合に積極的に参加して各区分所有者がひとつにまとまると、新しいマンションが完成したあとの管理組合運営がますますスムーズに進むでしょう。
分譲マンションの建て替え事例
分譲マンションの建て替え事例を2つ紹介します。
本郷センターハイツの建て替え事例
名古屋市内初の民間による分譲マンション(旧:本郷センターハイツ)を建て替えた事例です。関電不動産開発株式会社、野村不動産株式会社、株式会社長谷工不動産の3社が協業して建て替えを推進しました。
既存の分譲マンションは、築年数が42年になり、老朽化が進んでいました。
しかし、前述したとおり、建て替えは区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成がなければ進められません。建て替え案が出た当初は、反対や戸惑いの声が多かったそうです。そこから区分所有者らが十年近くかけて合意形成を行い、建て替えを決めました。
もともとは38戸の分譲マンションでしたが、建て替え後は地上15階建て、1階部分に商業施設、2階以上に94戸の「シエリア本郷駅前」という新しいマンションに生まれ変わりました。
参考:東京新聞「<老いるマンション>戸数増やし費用の壁クリア 合意形成5年 建て替え」
恵比寿フラワーホームの建て替え事例
まだ建て替えは完了していませんが、2025年に竣工予定の事例です。三井不動産レジデンシャル株式会社が事業協力者として推進しています。
既存の分譲マンション(恵比寿フラワーホーム)は築52年を超えており、設備の劣化や耐震性の不足などの問題点がありました。
しかし、借地権付区分所有マンションのため、底地権者との借地関係の解消や共有資産の分割などの課題があり、合意形成まで時間がかかったようです。
2023年5月14日に着工した建て替え工事によって、地上12階建、総戸数34戸の建物から、地上15階地下1階建、総戸数81戸の建物に生まれ変わる予定です。
参考:PRTIMES『マンション建替え円滑化法にもとづくマンション建替え事業「恵比寿フラワーホームマンション建替え事業」着工』
分譲マンションの建て替え費用
分譲マンションを建て替えるには、どのような費用がかかるのでしょうか。また、資金不足で建て替えが実行できない分譲マンションはどうなるのかも理解しておきましょう。
費用は区分所有者が負担する
分譲マンションの建て替えにかかる費用は、大きく以下のように分類できます。
- 既存マンションの解体除却工事費
- 新しいマンションの設計・工事監理費
- 新しいマンションの建設工事費
- 新しいマンションの事業経費
- 仮住まい費用
これらの費用は区分所有者が負担します。負担割合は専有面積の割合によって配分することが多いでしょう。そのため、1戸当たりの負担額は約1,000万~3,000万円になるのが一般的ですが、分譲マンションのグレードによってはこれを超える場合もあります。
また、容積率の緩和が適用されることがあります。容積率とは、敷地面積に対する建物の延床面積(全階層の床面積合計)の割合のことで、地域ごとに法律で定められています。
容積率の制限が緩和されると、新しいマンションの規模を以前の延床面積より大きくできるため、全体戸数を増やせます。
建替組合に参加する戸数を超えた住戸は分譲できるため、収益が生まれます。分譲により得た収益は建替事業費として充当して、1戸当たりの負担額を軽減できます。
資金不足で実行できないことも
建て替えができない理由として、次の2つが考えられます。
- 建て替え決議ができなかった
- 建て替え決議はできても資金面で実行できない
建て替え決議ができないのは、以下のようなケースで発生します。
- 賛同者が少なく5分の4の要件を満たせない
- 管理組合に出席する区分所有者が少なく総会自体が開催できない
建て替え決議はできても資金面で実行できないのは、容積率緩和が適用できず、現在の区分所有者の費用負担だけで建て替えをしなければならないケースで起こります。
区分所有者には建て替えのための資金を準備できる人と、できない人がいます。融資制度や支援制度もありますが、1戸当たりの負担額が大きくなると資金の準備が難しいでしょう。
建て替えができない場合、管理組合総会において5分の4以上の決議が必要ですが、敷地売却制度により、敷地を売却する方法を選択することになるでしょう。
分譲マンションの所有者ができる選択
分譲マンションの建て替えで、個人の立場である区分所有者はどのような行動ができるのでしょうか。
建て替えに賛同する
住み慣れた住まいとエリア、気心の知れた住民同志といった関係があると、建て替えに参加したいといった思いは自然のことです。
多額の費用がかかりますが、融資制度などを利用して資金が準備できる場合は、建て替えに賛同します。
管理組合における総会が開催される前には、建て替えに関するさまざまな資料が手元に届くでしょう。説明会などもたびたび繰り返されるでしょう。
計画の概要を理解して問題がなければ、賛同する方向で準備をします。仮住まいの準備も必要なため、費用面やスケジュールなどをしっかりと把握する必要があります。
建て替えに反対する
資金面などで建て替えに賛同できない場合は、次の3つの選択肢があります。
- 計画が始まる前に売却する
- 管理組合総会で建て替えに反対し、建て替えが決議された場合は売渡請求を待ち、売却する
- 管理組合総会で敷地売却が決議された場合は、その決議に従う
建て替えに反対する人が多そうな場合は、敷地売却を選択する方法もあります。しかし、建て替え決議と同様に、管理組合の総会が開催される時期まで行動を起こせません。
また、建て替えが決議されたあとに反対する人に対して、建替組合は売渡請求ができるので、その請求を受け入れて譲渡する方法もあります。
建て替え時期の到来前に売却する
資金面などで、将来建て替えに反対する可能性が高い場合は、建て替え時期が来る前に売却を検討すべきでしょう。
建て替え時期が来てしまうと、購入する人も限られるため売却価格は低くなる可能性が高いです。
建て替え時期は築60年前後といわれますが、築40年を過ぎると、期待する価格で売ることは難しくなります。
新築で取得した分譲マンションであれば、住宅ローンの返済が終わるころまでに売却を考えましょう。中古で取得した分譲マンションであれば、築30~40年の間を目安に検討するとよいでしょう。
納得のいく売却を成功させるには、必ず複数の不動産会社から査定価格を提示してもらい、信頼できるパートナーを見つけましょう。
まずは、一括査定サイトの「リビンマッチ」を利用しましょう。リビンマッチなら、自宅にいながらインターネット上で複数の不動産会社による査定結果を比較できます。
査定結果だけでなく、担当者の信頼性などを検討し、売却を依頼する会社を選ぶようにするのが重要です。
分譲マンションの建て替えに関するよくある質問
- 分譲マンションの建て替えが必要な時期は?
- 構造的な特性や設備の更新を考えると、築100年以内には建て替えが必要になるでしょう。また、実際に建て替えられた分譲マンションの築年数は平均で約60年といわれているため、目安にしておきましょう。
- 分譲マンションの建て替え費用は誰が負担する?
- 区分所有者が負担します。負担割合は専有面積の割合によって配分することが多いでしょう。そのため、1戸当たりの負担額は約1,000万~3,000万円になるのが一般的ですが、分譲マンションのグレードによってはこれを超える場合もあります。
この記事の編集者
リビンマッチ編集部
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