家族信託制度をわかりやすく紹介。資産承継として注目を集める理由とは

親が認知症などになったとき、資産管理をどうすればよいか不安になったことはありませんか。
認知症などで判断能力が衰えた人に代わって、資産を管理する制度に任意後見制度があります。しかし、この制度では不都合が起きることもあったため、平成19年にできた制度が
そこでこの記事では、家族信託制度についてメリットやデメリット、利用すべきタイミングなどを詳しく紹介します。
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資産承継として注目を集める家族信託制度とは
家族信託制度は平成19年(2007年)に施行された制度です。初めて聞いた方でも理解できるように施行された背景や注目されている理由を紹介します。
家族信託とは
家族信託とは、自分で財産を管理できなくなったときに備えて、保有する不動産などの管理権限を信頼できる家族に託す方法のことです。
家族信託は、「委託者」「受託者」「受益者」の3者の間で行われます。
- 委託者:財産を託す人
- 受託者:財産を管理する人
- 受益者:財産の利益を受け取る人
受益者は財産の利益を受け取る人ですが、受託者と受益者は同じ人になる場合が多いです。
家族信託制度ができた背景
高齢化社会である日本は、認知症などの病気になるリスクに備える必要があります。厚生労働省の発表によると、2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症になるといわれています。
日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されており、高齢社会の日本では認知症に向けた取組が今後ますます重要になります。
認知症などになって判断ができなくなった場合、これまでは成年後見という制度を利用していました。成年後見は、判断ができなくなった人の子や、弁護士などが後見人として財産の管理や契約の締結を代わりに行うものです。
しかし、後見制度は裁判所の監督のもとでの財産管理となるため、後見人の思いどおりに財産の運用ができません。また、新たな借金や不動産購入は原則できないため、財産は実質凍結となってしまいます。こういった不都合をなくすために考えられたのが、家族信託制度です。
注目される理由
家族信託が注目される主な理由は下記の3つです。
- 認知症などの病気のリスクに備える
- 成年後見制度の限界
- 資産承継に安心感が出る
認知症などの病気リスクに備える
家族信託をしていない場合、家族であっても本人の委任がなくては、本人の財産を管理できません。つまり、預貯金を引き出したり、不動産を管理・売却したりできないのです。認知症や脳梗塞で自分の意思が伝えられなくなると、事実上委任ができないため、財産を有効に活用できなくなってしまいます。よって、相続対策にも着手しづらくなる問題があります。
家族信託をすることで、そのようなリスクに備えられます。
成年後見制度の限界
認知症対策のひとつとして、これまでは成年後見制度が利用されてきました。成年後見制度は、裁判所の監督のもとでの財産管理となるため、現実的には後見人の思いどおりにはできず、有効的な活用や処分ができない場合があります。
たとえば、成年後見では不動産の所有者が認知症になった場合、財産の現状維持が目的とされます。そのため、後見人が弁護士などであれば、売却を行うのは難しいでしょう。しかし家族信託では、委託者の認知機能があるうちに財産管理の希望を伝えておけるので、委託者の意思に沿った資産管理が可能になります。
資産承継に安心感が出る
任意後見制度では、判断能力が低下したあとでないと、後見人が機能しませんでした。しかし、家族信託の場合、信託契約をした時点で受託者による資産管理が可能です。そのため、資産管理を委託者本人が見守れるというメリットがあります。
そのため、委託者にとっては心身ともに健康な状態で、資産を承継できるという安心感があります。
メリットとデメリット
ここでは、家族信託制度のメリットとデメリットについて紹介します。
メリット
家族信託の主なメリットは以下の4つです。それぞれ紹介します。
- 委託者の思いどおりに財産を承継できる
- 成年後見制度より柔軟に利用できる
- 相続のトラブルを防げる
- 倒産隔離機能が使える
委託者の思いどおりに財産を承継できる
家族委託には遺言の効果もあります。これは、家族信託契約のなかに、次に財産を受け取れる人を決めておけるからです。しかも、次の後継者だけではなく、次の次の後継者以降も決めておけます。
遺言書では、次の後継者までしか決められないため、次の次の後継者以降も決められるのは、家族信託特有のメリットといえます。
成年後見制度より柔軟に利用できる
成年後見制度では、本人の財産を守ることが最も重要です。そのため、有効的な財産運用ができないケースがあります。しかし、家族信託の場合、受託者の裁量で柔軟に資産運用ができます。
相続のトラブルを防げる
遺産分割協議をする場合、相続人全員で誰が何を相続するか決めなければなりません。相続人のなかに、意見が合わない人や認知症の人がいては、スムーズな相続ができません。
家族信託では、委託者が相続に関してあらかじめ決めておけるので、相続のトラブルを未然に防げます。
倒産隔離機能がある
受託者が破産してしまっても、委託者の財産が差し押さえられることはありません。このことを、「倒産隔離機能」といいます。それは、信託した財産はあくまで委託者のものだからです。
デメリット
メリットの多い家族信託ですが、注意すべきデメリットもあります。利用する前にしっかりと確認しておきましょう。
- 契約する権限はない
- 長期間、受託者が契約内容に拘束される
- 農地は扱えない
権限が制限される
家族信託は、財産の管理を委託する制度のため、それ以外の権限がないのがデメリットです。
たとえば、認知症になった親(委託者)を施設に入居させたい場合に、これは財産管理に当たらないため、子(受託者)は入居契約を結べません。契約をしたいのであれば、成年後見契約をする必要があります。
長期間、受託者が契約内容に拘束される
受託者は契約してから委託者が亡くなるまでの間、家族信託契約の内容に拘束されます。たとえば、信託された不動産が収益物件であれば収支報告書を作成して、委託者に報告したり書類を保管したりする手間が増えます。
農地は扱えない
畑や田んぼは農作物を育てるため、国が特別に保護しています。そのため、原則として家族信託はできません。
地方では、ひとりが複数の農地を所有しているというケースは珍しくありません。地目を宅地などに変更すれば家族信託ができますが、農地のままでは利用ができません。
利用すべきタイミングはいつ?
委託者を親、受託者を子とした場合に、どのタイミングで家族信託制度を利用したらよいか迷っている人も多いと思います。利用すべきタイミングについて紹介します。
委託者に判断能力があることが最低条件
家族信託契約を結ぶためには、委託者に契約を判断できる能力がなければなりません。そのため、認知症などで判断能力がなくなると、契約を結べなくなります。
よって、判断能力があるうちに家族信託契約するのが最低条件です。
早ければ早いほうがよい
判断能力がいつ失われるかは誰にもわかりません。また、認知症の発症を確かめるのも難しいです。そのため、家族信託制度を利用したいと考えるなら、なるべく早く契約したほうがよいでしょう。
しかし、家族信託契約を結ぶには、委託者(親)の同意が必要です。親が健康な場合、拒否されるかもしれません。そのため、早くから行動し、親を説得する期間も必要です。
契約を早く結んでしまうと、心境に変化があったときに対応できないと思うかもしれません。しかし、契約の内容は変更することも可能です。健康なうちに家族信託契約を結んで、安心して引き継ぎを行いましょう。

大手住宅メーカーの注文住宅販売や不動産テック企業の仲介業務に4年間携わり、不動産取引にかかわった件数は350件以上にわたります。2021年よりリビンマッチコラムの執筆・編集を担しています。皆さんが安心して不動産取引を行えるよう、わかりやすくリアルな情報を発信します。
この記事の編集者
リビンマッチ編集部
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